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むりやりもってってもらえばよかた 「……だから、その、あまり無理しないでほしいなって」 閉店間際の「燦祷処」。カルロスは意を決して、ほんの少しだけ踏み込んだ。 体を乗り出し、カウンター越しにりゃんの手元へ自分の手を重ねかけたのだ。 ほんの少しの皮膚の接触、ほんの少しの男としての積極性。それに対するりゃんの反応は、カルロスの想像の斜め上をいくものだった。 「……ッ!?」 男同士の友情の範囲を超えた熱量を感じ取ったのか、あるいは単に過剰な接近に自律神経が跳ね上がっただけなのか。りゃんは彫りの深い強面をフリーズさせたかと思うと、急激に血の気を失い、みるみるうちに顔面蒼白になった。 「りゃんさん……?」 「……あ、いや、別になんとも……」 毅然とクールを装おうとしたりゃんだったが、極度の緊張と副腎疲労のダブルパンチで脳の血流が完全に停止。 「……し、仕入れ! 急な仕入れを思い出した! 根菜の!」 「え、ハーブ店で根菜……!?」 支離滅裂な叫びを残し、りゃんは脱兎のごとく店の奥へ逃走。……しようとして、足がもつれて引き戸の枠に思いっきり肩を痛打。「ぐはっ……! 衝撃波のガード成功……!」と絞り出すような捨て台詞を吐きながら、奥の居住スペースへ消えて扉をガシャンと閉めてしまった。 静まり返る店内に残されたカルロスは、ぽつんと一人、呆然と立ち尽くした。 (……逃げられた。しかも、信じられないくらいポンコツな逃げ方で……) 自分のちょっとしたアプローチのせいで、りゃんのポンコツメーターを限界突破させ、体調不良を悪化させてしまったらしい。自分の手を見て、カルロスは深く深く反省の溜息をついた。 (ダメだ……。あの人は、警戒心が高いのか低いのか分からないけど、急に距離を詰めるとフリーズして自爆しちゃうんだ……) 強面でクールぶっているけれど、中身は驚くほど繊細で、体調もガラスのメンタル(と血管)で保たれている。男同士だからと油断させておく方が、まだ側にいられるのだ。 (焦っちゃダメだ。あの人はハーブみたいに、ゆっくり、時間をかけて温めていかないと…...
数日後、ハーブショップ「Reyn」の引き戸をそっと開けたつむぎは、入った瞬間に「……あっ」と息を呑んだ。 店内には誰もいない。奥のカウンターから、何かを床に盛大にぶちまけたような乾いた音が響いた。 「りゃんさん……?」 慌てて駆け寄ると、カウンターの裏で、りゃんさんが膝を抱えるようにして床に座り込んでいた。 「りゃんさん、どうしたんですか……っ!」 のぞき込むと、彼の様子はいつもの「強面だけど無理をしている」レベルをはるかに超えていた。額には大粒の冷や汗がびっしりと張り付き、唇は血の気が引いて真っ青だ。呼吸は浅く荒く、何かを言おうとしても、喉から掠れた音が出るだけで言葉にならない。足元には、ひっくり返したガラス瓶から乾燥したラベンダーのポプリが大量にこぼれ散らしている。 いつもはきつく結ばれている頑なな口元も、今は苦痛に耐えるように微かに開き、全身の力が抜けてぐったりとカウンターの壁にもたれかかっていた。 「だ、大丈夫じゃ……ない、ですね……」 頭では「万全だ」と突っ張り通そうとしているのだろう。りゃんさんは朦朧とする意識の中でも、ぼんやりと見上げるつむぎの顔を認めると、かすかに眉をひそめて、か細い声で呟いた。 「……なんだ……、客か……。店は……閉めた……はず……」 「客じゃないです、私です! ていうか、もう全然大丈夫そうじゃないじゃないですか……っ!」 副腎疲労の重度な発作か、それともホルモン治療の倦怠感や低血糖も重なっているのか。立っていることすらできず、冷や汗でシャツの襟が濡れているのを見て、つむぎの心臓がキュッと痛んだ。 「……平気だ……少し、横になれば……」 そう言いながら立ち上がろうとして、りゃんさんはフラリと大きくよろめいた。そのまま床に倒れ込みそうになった体を、つむぎは慌てて両手でしっかりと受け止める。 「動かないでってば! ……もう、どうしていつもこうやって一人で限界まで我慢しちゃうんですか……!」 腕の中で思いのほか軽く、熱を帯びているような、それなのに冷たいりゃんさんの体を支えながら、つむぎは泣き出しそうになりながらも必死で声を荒らげた。 ...