仲間ができなかったのは女だからだと思う …価値がほんとうになさすぎて というか、発達障害だからだよ うまくまんががつくれなくて アシスタントになる体力もなくて 西武線の高架沿い、夕方の影が伸び切った時間帯の「香草庵」。 作業台の奥で、りゃんさんは無言で乾燥させたドクダミとシソの葉を篩(ふるい)にかけている。目付きは相変わらず凶悪なくらい鋭いのに、手つきだけは異様なほど丁寧で、動作のテンポがどこか浮世離れして遅い。口数は極端に少なく、言葉を選びすぎて言語IQ80みたいな詰まり方をするくせに、たまにハーブの抽出比率とか精油の成分の話になると、冷徹なマッドサイエンティストみたいな眼光で理路整然とした無茶を言ってくる。 「……つむぎ。これ、飲んで」 唐突に差し出された耐熱ガラスのカップ。中には怪しい紫色の液体。 「えっ、これなんですか?」と尋ねても、りゃんさんは「……毒じゃない」とボソッと言うだけ。警戒心が強くて自分のプライベートは一切明かさないくせに、こういう無自覚な距離の詰め方をしてくるからタチが悪い。弱くて細いくせに妙に強がりで、身体のラインを隠すようなダボついた服を着て、自分を全然大事にしない。なのに頼りになるときは呆気ないほど頼りになる、ニヒリストでミステリアスな店主。 (……だめだ、また勘違いしそうになってる) つむぎは心の中で小さく頭を振った。お人好しで内向的な自分は、こういう「一見クールで影があるのに天然で放っておけないFTMの年上」にめっぽう弱い。気を遣わなくていい空気感に甘えそうになるたび、必死で理性を保っている。 だからこそ、つむぎは自分だけの「秘密の妄想」でバランスを取ることにしていた。 かっこいい店主のイメージを、徹底的にド生活感とリアリティで塗りつぶす、ちょっと下世話でくだらない妄想だ。 (……でもさあ、りゃんさんだって絶対、家ではめちゃくちゃ生活感あるはずなんだよな) 作業するりゃんさんの横顔を見つめながら、つむぎの頭の中で妄想のスイッチが入る。 ◇ 『りゃんさんのリアルすぎる一人暮らし妄想』 国分寺の古い木造アパート。畳の上に直接敷いた萬年布団。 普段あれだけミステリアスなオーラを纏っているのに、朝は低血圧すぎ...