僕の婚約者は、ちょっと変なやつだ。 商家の娘で平民なのだが、無視できない影響力を持つために、我が ルーテル伯爵家 と婚約関係にある。 ルーテル伯爵家はこの国で1,2を争う伯爵位だが、 カステリオ商会 と懇意になるのはそれだけ利益があるということなのである。 だがこの娘、 マーリエ は、少し、いや、かなり変わっている。 まず、人の目を見ない。なぜかと問えば、「貴族に合わせる顔がない」という。終始おどおどしており、僕のことはろくに見たことがない。 身なりはメイド、いや、小僧と同じようなよれたシャツにズボンである。服で性別を判断する現代においては、どう見ても男だ。僕に男色の趣味はない。 髪はどうにか伸びてはいるが、後ろでひとつ結びだ。まるで平民、貧相な平民である。 学校に通い始めてもそれは治らなかった。社交会デビューをするとなったら、あれは一体どうなるのだろうか。 なぜ男の格好をするのかと問えば、「ボクは美しくありませんから」と言う。彼女は自分が美しくないと本気で思い込んでるようだ。しかし、造形は悪くない。当然体型も問題なく、少々つり目であることを気にしているのだろうか。しかし彼女のプラチナブロンドと、オパールのような瞳はとても美しいと思う。それも、自分が手入れしているのではないのだろうが、それでもだ。 なぜそんな娘に育ったのかと言うと、ひとつにはやはり彼女自身に問題があるようだ。彼女は勉強や読書が好きで、 いや、好きというほどでもないのだろうが、 とかく歴史と政治に関心を持っている。それなら社交界に行って為政に口を出せと言いたくなるが、そんな自信はないらしい。要するに、年頃の娘が好む装飾や恋愛といったものに全く興味を示さないのである。その理由は定かではない。興味がないから遅れを取り、コンプレックスとなり、それがまた彼女を勉学に走らせる…といった感じである。 カステリオ商会には、二人の奥方がいる。正妻、妾、あるいは後妻、副妻、というものではなく、その名の通り「妻が二人」だ。カステリオの故郷のしきたりで、妻は何人持っても良いのだという。マーリエの母は舞台女優をしていた。父親は商人と言うよりは、芸術家と言ったほうがいい。常人には作れないものを作り、それが売れ、現在の地位となった。兵器なども次々に生み出すため、国も蔑ろにできないのである。 そのため屋敷の半分はアトリエのような工...