自席のパソコンの端から、つむぎは斜め前方で淡々とキーボードを叩き続ける「りゃんくん」の横顔をこっそり観察していた。 ――本当に、あの人は鉄壁だ。 ついさっきも、他部署の花形と言われている女性社員が、洗練された笑顔で週末の映画とディナーの誘いを持ちかけていたのを目撃した。世の中の男性のほとんどが舞い上がって即答しそうな完璧なアプローチだったのに、りゃんくんは画面から目を離さないまま、こう言い放ったのだ。 *「週末は自室の観葉植物の植え替えとハーブの蒸留スケジュールが詰まっているので無理です。あと、その香水、少し香りが強すぎてオフィスの空気の循環効率を落とすので控えてもらえますか」* デートの誘いを華麗にスルーした挙句、相手のパーソナルな好みにまで容赦ない正論のダメ出しをブチかます。女性は綺麗に顔を引きつらせてすごすごと引き下がっていった。 周囲からは「あいつは人間味がない」「どれだけアプローチしても無駄な難攻不落の氷の塊だ」と噂されている。 けれど、つむぎは知っている。 彼はただ冷淡で女性に興味がないわけではない。ただ、彼の脳内にある「他人に興味を向けるリソースの配分」が、常人とは完全にバグっているだけなのだ。 誰がどう誘おうと、彼が定めたデータや観察対象の枠組みに入っていなければ、どんな美女の誘いであっても秒でゴミのように切り捨てる。そのくせ、自分がいざ「観察対象(お気に入り)」の枠内にガッチリ捕らえられてしまえば、逃げ場など一ミリも用意してくれないあのねっとりとした執着を浴びせ続けるくせに。 「……何ですか、そんなにじっと見つめて」 不意に、目の前のパソコンの隙間から、低く落ち着いた声が降ってきた。 いつの間にか作業を止めていたのか、りゃんくんは冷徹なドSの仮面を貼り付けたまま、しかしどこか湿度を含んだ目をこちらに向けていた。 「さっきから、隣の部署の人が振られているのを観察して、何を考えているんですか。まさか、自分ならあの誘いを断られないとでも思っていました?」 図星を突かれて息を呑むつむぎに、りゃんくんは椅子を少しだけ音を立てて引き寄せ、逃げ場を塞ぐように身体を傾けた。 「あんな中身のないお遊戯...