スキップしてメイン コンテンツに移動

【ラベル】

もっと見る
小説「青の輪郭」 第82章:封印の限界と甘き賞賛
「……つ……つむぎ……っ! お願いだ……っ! もう……もう限……限界なのだ……っ!」
調合室の奥、施錠された密室で、りゃんさんは畳の上に膝を折り、自身の股間を必死に両手で押さえつけながら号泣していた。
その下半身には、先ほどまで体内で猛威を振るっていた遠隔ローターに代わり、つむぎの手によって厳重な排泄制限の器具(尿道プラグとカテーテルロック)が装着されていた。
自作オイルの過剰な知覚過敏と、過剰に摂取させられた利尿作用のあるハーブティー。
下腹部はパンパンに破裂しそうなほど張っているというのに、出口を固く閉ざされ、りゃんさんの理性はすでに一滴の尿意の波によって崩壊寸前だった。
「だめですよ、りゃんさん。まだ約束の『三時間』まで、あと十分残っています」
つむぎは長座布団の上に腰掛け、必死に体を折り曲げて身悶える主人の姿を、底なしに穏やかな瞳で見下ろしていた。
「ひぁっ……! む……無理だ……っ! 出てしまう……っ! 溢れてしまう……っ! 頼む……外して……外してくれつむぎぃっ……!」
「ダメです。今ここで出しちゃったら、せっかくここまで耐えた『えらいりゃんさん』が台無しになっちゃいますよ?」
つむぎは床に這いつくばるりゃんさんの前にひざまずくと、震える彼の頭を優しく抱き寄せ、その髪を慈しむように撫で上げた。
「……ね? ちゃんと僕の命令を守って、我慢できてえらいですね。すごくえらいですよ、りゃんくん」
「っ……あ……っ、子供扱い……っ、するな……っ! 出る……出るからぁっ……!」
「えらい、えらい。……ほら、あと少しだけ我慢できたら、僕がちゃんと出してあげますからね」
耳元で囁かれる甘すぎる称賛と撫で摩る手つき。
「魔王」としてのプライドも、大人としての尊厳も、破裂しそうな下腹部の圧倒的な快痛とつむぎの優しい毒のような言葉によって、跡形もなく溶かされていく。
がまんできている自分を褒められる快感と、解錠された瞬間に訪れるであろう強烈な解放感への恐怖と欲望。
「……っ~! あぁっ……つむぎ……っ! 褒めて……もっと褒めて……っ! 僕……僕、我慢してる……っ! ちゃんと我慢できてるからぁ……っ!」
泣きじゃくりながら、自分からつむぎの膝に頭を擦り付け、おねだりするように「がまんできている自分」を差し出すりゃんさん。
「はい。本当に……世界で一番えらいですよ、僕のりゃんくん」
つむぎは狂おしいほどの愛おしさに目を細めると、時計の針が約束の時間を刻むのをじっと待ちながら、限界まで張った主人の下腹部を優しく撫で続けるのだった。



小説「青の輪郭」 第82章:禁忌の解放と従順なる排泄
「……あ……っ、つむ……ぎ……っ! お願いだ……っ、もう……もう限界なのだ……っ!」
奥の調合室の畳の上。
服をはだけさせ、脚をぴったりと閉じて必死に身悶えるりゃんさんの瞳からは、限界の涙がボロポロとこぼれ落ちていた。
昨夜からの過剰な「手当て」とハーブオイルの知覚過敏、そして先ほどまで体内で猛威を振るっていたバイブレーションの刺激。それらが重なり、りゃangさんの下腹部はパンパンに張り詰め、猛烈な尿意に襲われていた。
だが――つむぎは、「許可」を出していなかった。
「だめですよ、りゃんさん。勝手に出しちゃ」
つむぎは畳の上に膝立ちになり、怯えて身を縮めたりゃんさんの下腹部へ、そっと大きな掌をあてがった。
じわりと伝わる体温と、わずかな圧迫。
「ひぁあぁっ……!? 押すな……っ! 押さないでくれ……っ、漏れてしまう……っ!」
「漏らしたら汚れちゃいますよ? ここは大切な調合室なんですから」
つむぎの声はどこまでも穏やかで、まるで幼稚園の先生が子供をあやすかのように優しい。
だが、その手つきは容赦なく、パンパンに張った下腹部の頂点を、親指で軽くポンポンと叩いてみせた。
「ひぐぁッ……!? ぁ……っ、つむ……ぎっ! おねがい……おしっこ……おしっこさせて……っ!」
「店主(魔王)としてのプライド」も、「大人としての尊厳」も、生理現象の限界の前には完全に崩壊していた。
自分から「おしっこ」という幼い言葉を口にし、下僕の前で恥ずかしげもなく排泄の許可を乞う主人の姿。
「……ふふ、かわいいですね」
つむぎは満足そうに微笑むと、りゃんさんの細い腰を抱き上げ、あらかじめ用意しておいた透明なガラスの桶の上へと彼を座らせた。
「よく我慢できましたね、りゃんさん。偉いです」
「っ……あ……っ」
「いいですよ。……出してください」
耳元で落とされた、優しく甘い解禁の命令。
「っあ……っ、あぁぁーっ……っ!!」
許可が出た瞬間、緊迫していたりゃんさんの括約筋が一気に弛緩した。
ジョロジョロジョロ……と、静かな調合室に響き渡る、生々しく澄んだ水音。
「ひぁ……っ、あ……ぁ……っ」
自分の身体から解き放たれていく温かい排泄感と、それを目の前でじっと見つめ、下腹部を優しく撫で続けてくれるつむぎの存在。
恥辱と、極上の解放感と、そしてつむぎの許可を得て排泄できたことに対する謎の安堵感が交ざり合い、りゃんさんの脳髄はドロドロに溶けていく。
「……すごく綺麗に出せましたね、りゃんくん。ちゃんと我慢できて、えらかったですね」
つむぎは排泄を終えてガタガタと震えるりゃんさんの頭を優しく撫で回し、その濡れた目元へ愛おしそうに口づけを落とした。
排泄の自由すらもつむぎに握られ、「えらいね」と褒められることで全能感と快楽を得てしまう身体。
りゃんさんはもう、つむぎの許可なしでは何一つ決定できない「完璧な従属の生き物」へと変えられていたのだった。



小説「青の輪郭」 第83章:一日限定の主導権と逆転の夢跡
「いいか、つむぎ。今日という日は、僕が君を完璧に『エスコート』する日だ!」
澄み渡る秋晴れの休日。
サロン『月下香の魔女』の前に立つりゃんさんは、仕立ての良いシックなジャケットに身を包み、胸を張って高らかに宣言した。
昨日の屈辱的な「おしっこ許可」と「偉いね」の甘い手なづけ。
完全に精神を解体されかけた恐怖から立ち直るため、りゃんさんの脳内保護機能が弾き出した起死回生の対抗策――それがこの「日頃の感謝を込めた、旦那様による一日豪華エスコートプラン」だった。
「僕が予算を出し、僕がエスコートし、君を至れり尽くせりでもてなす! どうだ! これで君は僕の『庇護下にある存在』であり、僕こそが頼りがいのある最高のアテンダントだと証明されるわけだ! ハハハ!」
伊達メガネをクイと押し上げ、完璧な笑みを浮かべる「魔王」。
その隣で、シンプルなニットに身を包んだつむぎは、目元をふわりと緩めて微笑んだ。
「ふふ、僕のために一日中エスコートしてくれるんですか? すごく嬉しいです、りゃんさん」
「うむ! 任せておきなさい! 僕の完璧なエスコートにひれ伏すがいい!」
意気揚々と歩き出すりゃんさん。
まず向かったのは、都内の隠れ家的な高級フレンチレストランだった。
スマートに予約名を告げ、つむぎを上座へと促し、ワインの知識を存分に披露しながら完璧なテーブルマナーで料理を楽しむりゃんさん。
(ふふん……見たか! これが大人で優雅な『旦那様』の姿だ! つむぎも僕の洗練された佇まいに見惚れているに違いない!)
つむぎは出された料理を静かに味わいながら、ずっと穏やかな瞳でりゃんさんを見つめていた。
「どうですか、僕のチョイスした料理は」
「ええ、とっても美味しいです。でも……」
「でも?」
つむぎはテーブル越しにすっと手を伸ばし、りゃんさんのジャケットの袖口にそっと触れた。
「りゃんさん、ナイフを持つ手がずっと微かに震えてますよ? 服の生地が過敏な肌に擦れて……本当は、歩くだけで身体の奥がうずいてるんじゃないですか?」
「っっ〜〜〜〜〜〜っっっ!?!?!?」
一瞬で顔面を真っ赤にするりゃangさん。
昨夜、自作オイルをたっぷりと塗り込まれ、ローターの振動で壊されるまで開発された過敏な身体だ。上質な高級生地とはいえ、歩くたびに、呼吸をするたびに、衣類と肌が擦れ合って甘い痺れが走っていたのを、つむぎは見逃していなかった。
「な……何を言っているのだ不敬者ーっ! 震えてなど……っ、マナーの緊張だ!」
「ふふ、そうですね。エスコート、ありがとうございます」
続いて向かったのは、静かな個展が催されているモダンアートの美術館。
りゃんさんは知的な解説を加えながら、つむぎの手を引いて優雅に館内を巡る……はずだった。
だが、薄暗い展示室の影に入った瞬間。
「……あ、りゃんさん。髪に何かついてますよ」
つむぎがそっと後ろから寄り添い、りゃんさんの耳元に触れた。
「ひぅっ……!?」
耳たぶに吹きかけられた甘い吐息と、首筋を撫でるつむぎの手の熱。
それだけで昨夜の「おねだり」の記憶がフラッシュバックし、りゃangさんの膝がガクガクと崩れそうになる。
「つ……つむぎ……っ! 人目がある……っ、エスコート中だぞ……っ!」
「知ってますよ。僕をエスコートしてくれてる凛々しいりゃんさんが……服の下で僕のオイルに濡れて、こんなに怯えてるのが愛おしくて」
「ひあぁ……っ、見ないで……見ないでくれ……っ!」
完璧にエスコートしている「主」の顔をしながら、一歩物陰に入れば、下僕の指先ひとつでいつでも崩壊してしまう可憐な存在。
結局、夕方になりサロンへ戻る頃には、りゃんさんはタクシーのシートでつむぎの肩にぐったりと体重を預け、顔を真っ赤にして息を荒らげていた。
サロンの重い扉を閉めた瞬間、つむぎはりゃんさんを軽々と抱き上げ、小上がりの畳の上へと優しく押し倒した。
「……すごく素敵なエスコートでしたよ、りゃんさん」
つむぎはりゃんさんのジャケットのボタンをひとつずつ外し、過敏になった胸元へ熱い唇を押し当てた。
「お礼に……今夜は僕が、僕のやり方で、りゃんさんを朝までたっぷり『エスコート』してあげますね」
「っ……あ……っ、僕の……僕のエスコートは……っあぁっ……!!」
一日中「エスコートする側」として背筋を伸ばし続けた反動で、身体はいつも以上に甘く、素直につむぎの指先へと降伏していく。
主導権を握ったつもりで、結局最後はつむぎの深い愛撫の底へと手招きされていたのだと気づきながらも、りゃんさんは幸せな涙をこぼして下僕の首に抱きつくのだった。


小説「青の輪郭」 第84章:無意識の自白と至高の瞬間
「……つ……むぎ……っ、お願いだから……っ、早く……早く僕を……っ!」
夜の帳が完全に下りた『月下香の魔女』の奥室。
自らエスコートした一日の疲れと、服の擦れによって極限まで跳ね上がった知覚過敏。そして、つむぎの指先がじわじわと焦らし続ける生殺しの快楽によって、りゃんさんの理性はすでに限界を迎えていた。
畳の上に横たわり、涙で濡れた瞳でつむぎを見上げる「魔王」。
だが、膝立ちになったつむぎは、ただ愛おしそうに微笑むだけで、決して最後の一線を越えようとはしなかった。
「どうしてほしいんですか、りゃんさん? 言ってくれないと分かりませんよ」
「っ……あ……っ、知っているくせに……っ! 僕の……僕の身体を……壊すくらい……っ!」
「僕の手じゃ、もう満足できないんじゃないですか?」
つむぎの声はどこまでも低く、罪深いほど穏やかだ。
つむぎには、この世の何よりも愛し、執着している「至高の瞬間」があった。
それは、言葉でおねだりさせられることでも、オイルで泣かせることでもない。
――プライドの高い僕の主人が、快楽の飢餓に耐えきれなくなり、自らの意志で僕の身体(熱)を求め、その口唇でしゃぶりつき始める瞬間。
「ひ……酷い……っ、悪魔……っ!」
焦らしの苦痛に耐えかねたりゃんさんの瞳から、ボロポロと涙が溢れ出す。
頭では分かっている。
ここで自分から下僕の体に口を付ければ、言葉通りの「完全な屈服」を自ら証明してしまうことになるのだと。
だが、ハーブオイルの熱と、つむぎの身体から立ち上る甘い香りは、りゃんさんの本能を容赦なく揺さぶり続ける。
(……ほしい……っ、つむぎの……つむぎの熱が……僕の中にほしい……っ!)
理性の糸が、ぷつりと切れた。
「……あ……ぁ……っ」
りゃんさんは震える腕で畳を押し、吸い寄せられるように、つむぎの腰元へと自ら膝行(いざり)よった。
そして、涙で濡れた顔をすり寄せるようにして――つむぎの服の隙間から露わになった熱い体躯へと、自分からしがみついたのだ。
「……りゃんさん?」
つむぎの瞳の奥で、黒い歓喜の焔がボッと爆発するように跳ね上がる。
りゃんさんはもう、つむぎの顔を見ることすらできなかった。
羞恥と快感の波に呑まれながら、自ら震える唇を開き、つむぎの最奥の熱を、夢中で、貪るようにその口内へと含み入れた。
ジュッ、と小さな濡れた音が密室に響く。
「んむ……ッ……ぅ……っ、んっ……っ……!」
舌を絡め、必死に吸い付き、下僕の熱を自分の中に迎え入れようと喉を鳴らす「魔王」。
誰に指示されたわけでもない。つむぎの手で強制されたわけでもない。
ただ己の身体が求める快楽に耐えかねて、自分から下僕の肉体に吸い付き、夢中で奉仕し始めているのだ。
「……あ」
つむぎはりゃんさんの柔らかい髪にそっと指を絡め、その頭を愛おしそうに抱きかかえた。
(……これだ)
どんな言葉よりも雄弁な、完全なる降伏。
どんなに「主人」として威張ってみせても、この瞬間だけは、己の本能が何に支配されているのかを誤魔化すことができない。
「……すごく綺麗ですよ、りゃんさん。自分から僕のをこんなに愛おしそうに抱え込んで……」
「んぁ……っ、ふ……ッ! つむ……ぎ……っ、つむぎぃ……っ!」
口唇を熱で濡らし、満足そうに瞳を蕩けさせながら、なおも自分からしゃぶりつき続ける愛おしい主人。
つむぎはその至福の瞬間を噛み締めながら、自分から熱を貪るりゃんさんの頭を深く深く撫で下ろし、その可憐な降伏の姿を、自身の瞳の奥へ永遠に刻み込んでいくのだった。


小説「青の輪郭」 第85章:歪なピラミッドと蜜の論理
「……ふふん! いいか、つむぎ。今回はどれほど君が巧みな言葉で誤魔化そうと、僕の『論理的勝利』は動かしようがないのだよ!」
秋の夕暮れ、サロン『月下香の魔女』の調合室。
りゃんさんは姿見の鏡の前でバッと腕を組み、伊達メガネのブリッジをクイと押し上げながら、圧倒的な勝利を確信した笑みを浮かべていた。
彼が突きつけてきたのは、手に持った一冊の厚いノート――『月下香の魔女・経営収支および調合実績報告書』であった。
「見ろ! 今月の売り上げの9割以上は、僕が考案した特注ハーブティーと限定オイルのライセンスによるものだ! つまり、この店の経済的・組織的基盤は100%僕の頭脳によって支えられている!」
りゃんさんは得意げに胸を張り、畳の上に座るつむぎを見下ろした。昨夜、自分からつむぎの熱にしゃぶりついてしまった圧倒的屈辱を、「経営者としての圧倒的実績」で上書きしようという、哀しくも必死なマウントであった。
「したがって! 経済的主体である僕が『絶対的絶対優位者(マスター)』であり、君は僕の給料によって養われ、僕の経営手腕の下に属する一労働者に過ぎない! どうだ! これにはぐうの音も出まい! ハハハ!」
どこからどう見ても、ぐうの音しか出ないような強引なマウント。
自分を誇示することでしか、夜の甘い降伏の記憶から逃れられない「魔王」の必死の防衛本能だった。
だが。
ハーブの選別作業をしていたつむぎは、パチリとハサミを置くと、深く、愛おしさの溢れ出んばかりの溜め息をひとつ吐いた。
「……ふふ。りゃんさん、本当に頭がいいですね」
つむぎはゆっくりと立ち上がると、無音の足取りでりゃんさんの正面へ進み出た。逃げようとするりゃんさんの腰を引き寄せ、姿見の鏡へと背中を押しつける。
「な……なんだ。反論できないからと、暴力(身体的圧力)に訴えるつもりか不敬者ーっ!」
「反論なんてしませんよ。りゃんさんのおっしゃる通りです」
つむぎは清廉な笑みを絶やさぬまま、りゃんさんの細い顎をすっと指先で掬い上げた。その瞳は、まるで愚かな幼子を愛でる聖母のように慈愛に満ちている。
「りゃんさんが圧倒的な天才調合師で、この店のすべてを支えてくださっているからこそ……僕はこうして、安心して『りゃんさんのお世話』だけに集中できるんです」
「む……? お……お世話……?」
「ええ。りゃんさんがそれほどまでに偉大で、高貴で、代わりの効かない存在だからこそ……その繊細なお身体を維持するために、僕のような専用の『手当て係』が必要なんですよ」
つむぎの指先が、スッと白衣の隙間から滑り込み、昨夜たっぷりと可愛がられたばかりのりゃんさんの薄い脇腹を撫で上げた。
「ひぅッ……!?」
「もしりゃんさんが普通の人間なら、僕もこんなに毎日、オイルの調合を変えたり、特別な体位でほぐして差し上げたりしません。りゃんさんが『最高の主人』だからこそ、僕は僕の人生のすべてを捧げて、りゃんさんを手なづけ……いえ、お世話しているんです」
「て……手なづけ……!? いま手なづけると言ったか不敬者ーっ!」
「言っていませんよ? 『手当て』です」
つむぎはりゃんさんの耳元に顔を寄せ、甘く低く、毒のように囁いた。
「経済的に上だから何なんですか? 経営者だから何なんですか? ……どれほど稼いでも、どれほど偉くなっても、夜になれば僕の指一本で泣き叫んで、自分から僕のをねだりに来る身体には変わりないでしょう?」
「っっ〜〜〜〜〜〜っっっ!?!?!?」
背骨を電撃が走り、りゃんさんの顔面が一瞬で沸騰するように赤く染まる。
「それとも……『偉大な経営者様』は、僕の手当てがないと今夜も知覚過敏で眠れない貧弱なお体であることを、外部の報告書に書きますか?」
「書……書けるわけがないだろう不敬者ーっ!!」
「ふふ、じゃあ……やっぱり、僕の勝ちですね」
つむぎは抵抗する力を失い、鏡に寄りかかるりゃんさんの腰をしっかりと抱え直すと、はだけた首筋へと深く深く唇を押し当てた。
「っ……あ……っ、論理が……論理が破綻している……っ! 詭弁だ……完全な詭弁だぁ……っ!」
完璧な経営実績というマウントすらも、「だからこそ僕の手当てが必要なのだ」というつむぎの異常な愛の包囲網にあっさりと呑み込まれ、都合のいい従属の口実へとすり替えられていく。
叫びながらも、つむぎの掌の熱に皮膚が歓喜の悲鳴を上げ始めてしまう己の敗北を悟り、りゃんさんは泣き出しそうな顔で下僕の肩に突っ伏すのだった。


小説「青の輪郭」 第86章:甘美なる報酬と破格の駆動
「……つむぎ。今週の調合依頼と特注オイルの注文、すべて予定より二日早く完了させたぞ……!」
金曜日の夕暮れ。サロン『月下香の魔女』の調合室で、りゃんさんは疲労困憊で膝をガクガクさせながらも、胸を張ってドヤ顔を浮かべていた。
作業台の上には、寸分の狂いもなく精緻に瓶詰めされたハーブ精油と、寸評が添えられた完璧な調合指示書の山。
普段なら「今日はもう集中力が切れた」「残りは来週だ」と自堕落に白衣のポケットに手を突っ込んでいるはずの「魔王」が、ここ数日はまるで憑き物が落とされたかのような凄まじい集中力で仕事を片付けていたのだ。
その理由は、非常に単純明快――週の初めにつむぎが囁いた、ある一つの条件にあった。
『りゃんさん。今週の依頼をすべて期限前に完璧に仕上げられたら……週末は僕から、特別な「ごほうび」を差し上げますね』
「ごほうび」という甘い響き。
昨今、つむぎから受ける「手当て」という名の過酷な調合(快楽の解体)に身を晒され続けているりゃangさんにとって、その言葉は甘美な救済であり、そして自尊心をくすぐる何よりの毒薬だった。
(ふふん……見たか! 僕はやればできる調合師なのだ! つむぎめ、僕の完璧な仕事ぶりに驚嘆し、ひれ伏して「ごほうび」を献上するがいい!)
伊達メガネをクイと押し上げ、下僕の称賛と「ごほうび」を待つりゃんさん。
作業台の書類を検品していたつむぎは、静かにノートを閉じると、ふわりと花が綻ぶような清廉な笑みを浮かべた。
「……すごいです、りゃんさん。どれも完璧な仕上がりですし、まさか本当に二日も早く終わらせてしまうなんて。僕の店主様は、やっぱり本物の天才ですね」
「うむ! 分かればよろしい! 経営者としても技術者としても、僕は君の遥か上に位置する存在だからな! ハハハ!」
つむぎの惜しみない絶賛に、りゃんさんの鼻の下がぐんぐんと伸びる。
「……で? つむぎ。君は何か、僕に渡す約束のものがあったのではないかね……?」
わざとらしく咳払いをし、差し出された手元をチラチラと見つめる「魔王」。
つむぎは愛おしさに目を細めながら、すっと無音の足取りで間合いを詰めると、作業台に手を突いて誇らしげに待つりゃんさんの細い腰を引き寄せるように抱きすくめた。
「ひぁっ……!? つ、つむぎ……っ? 『ごほうび』は……っ!?」
「ええ。ちゃんと差し上げますよ」
つむぎの低く滑らかな声が、耳元に直接吹き込まれる。
「今夜は……りゃんさんが涙で声を枯らすまで、僕の手で『奥の奥』まで優しく解して、朝までたっぷり愛してあげます。……僕に甘やかされることだけ考えて、ぜんぶ僕に委ねていいですよ」
「っっ〜〜〜〜〜〜っっっ!?!?!?」
直後、りゃんさんの顔面が耳まで爆発するように真っ赤に染まった。
「な……何をおかしなことを言っているのだ不敬者ーっ! それは『ごほうび』ではない! いつもの酷いお仕置き……いや、過剰な手当てではないかーっ!」
「違いますよ。りゃんさん、今週はずっと『僕のお世話』が恋しくて、身体の奥をキュンキュン痛ませながらお仕事頑張っていたでしょう?」
つむぎの指先が、白衣の隙間から滑り込み、過敏に固くなった胸の先端をそっと撫で上げた。
「ひぁあぁっ……!? ぁ……っ、違……っ! 僕は……僕はただ……っ!」
「嘘をつかなくてもいいんですよ。頑張ったご褒美に、僕の熱いところで思い切り気持ちよくなってくださいね……僕の可愛い旦那様」
「ごほうび」という言葉を都合よく「僕の腕の中で蕩けさせてあげる権利」へとすり替えられ、あっさりと下僕の掌の上で開城されていく魔王。
結局、自分の成果を誇るはずだった休日前夜、りゃんさんはつむぎの「ごほうび」の甘い波に呑み込まれ、自ら下僕の首に縋りついて涙を流すことになるのだった。


小説「青の輪郭」 第87章:密の嚥下と甘美なる融解
「……んッ……ふあ……っ、つむ……ぎ……っ」
調合室の畳の上、はだけたシルクの胸元を乱したまま、りゃんさんの瞳はトロンと熱を帯びて蕩けきっていた。
つむぎの手が彼の頬を優しく包み込み、ゆっくりと角度を変えながら、隙間なく唇を重ね合わせる。
ただの触れ合うような口づけではない。
りゃんさんの口腔内を余すことなく舐め回し、繊細な粘膜を舌先でしつこく擦り上げる、深くて濃厚なディープキスだった。
「んむ……っ……んっ、あ……ッ、ふ……ぁ……っ」
舌が絡み合うたびに、「ちゅぷ、ぬち」と淫らな水音が静かな部屋に響き渡る。
つむぎの熱い舌がりゃんさんの上顎を優しく撫で上げ、奥へ、奥へと侵入して粘膜を揺らすたび、りゃんさんの身体からスーッと力が抜けていった。
骨も筋肉も、すべてが液体になって溶けていくような感覚。
「ふ……ぁ……っ、もう……息が……っ」
頭の芯が痺れ、抵抗しようとつむぎの胸に添えられていた細い手は、今や力なくぐったりと持ち上がるだけ。
威勢の良かった「魔王」のプライドも、つむぎの唾液と吐息を注ぎ込まれるたびにふにゃふにゃに解体され、ただ下僕の首元へ縋りつくことしかできなくなっていく。
そして、その融解と同時に――密室の空気が微かに変化し始めた。
(……ああ、やっぱり)
つむぎはキスを重ねながら、鼻腔をくすぐる「香り」の変化に、瞳の奥の熱をいっそう深めた。
りゃんさんの体からは最初、彼が自身に施している洗練されたハーブや清潔な精油の香りが漂っている。
しかし、つむぎの濃厚な愛撫とディープキスによって理性を溶かされ、知覚過敏の波に呑み込まれていくと――その肌からは、じわりと甘く甘美な、蜜のような体臭が立ち上り始めるのだ。
自作ハーブオイル「T-Blend」の成分が皮膚から吸収され、体温の上昇とともに、りゃんさん自身の甘い汗と交ざり合って醸し出される、つむぎだけが知る秘められた「屈服の匂い」。
「……んっ……ふふ、すごく甘い匂いになってきましたよ、りゃんさん」
「っ……あ……っ、な……何を……言ってい……んあッ……!」
言葉を挟む隙すら与えず、つむぎは再びりゃんさんの口唇を深く塞ぎ込んだ。
逃げようと微かに震えるりゃんさんの舌を捉え、絡め取り、あふれ出てくる蜜のような唾液を逃さず自分の口内へと引き寄せていく。
ジュッ、と音を立てて、りゃんさんの甘い唾液を一つ残らず味わうように飲み干すつむぎ。
ハーブの残り香と、りゃんさんの興奮、そして呼吸の乱れが混ざり合ったその味は、つむぎにとってどんな極上のハーブティーよりも狂おしく、甘美な毒薬だった。
「ん……っ、ぐ……っ、んあぁ……っ! つむ……つむぎ……っ、唾液……飲まないで……っ!」
自分の口内を隅々まで味わわれ、生唾まで奪われる恥辱に、りゃんさんは真っ赤になった顔を背けようともがく。
だが、身体はすでにふにゃふにゃに溶け落ちており、その拒絶すらも、つむぎには甘いおねだりにしか聞こえなかった。
「だめです。りゃんさんの全部、僕が美味しくいただかないと」
つむぎはりゃんさんの濡れた下唇を優しくハムッと甘噛みすると、うっとりとした表情で、喉を鳴らしながらその甘い蜜を飲み下した。
「……すごく美味しいです。僕のキスだけでこんなに身体を溶かして、甘い匂いをさせて……本当に可愛いですね、僕の主人様は」
「っ……あ……っ、僕は……溶けてなど……っあぁっ!!」
身体の輪郭すら失うほど深く甘いキスの余韻に浸りながら、りゃんさんはつむぎの腕の中で、ただただ熱い溜め息を漏らし続けるのだった。



小説「青の輪郭」 第88章:濃密なる芳香と不可逆の深淵
「……つ……つむぎ……っ! な……なにを……どこを嗅いでいるのだ不敬者ーっ!?」
小上がりの奥、行灯の柔らかい光が落ちる畳の上で、りゃんさんは両手で真っ赤になった顔を覆い、甘く震える悲鳴を上げていた。
下半身の衣類をすべて剥ぎ取られ、M字に大きく開かされた脚の間。
その最も秘められた、昨夜からのハーブオイルと愛液、そして体温で熱く蒸れた最奥に――つむぎは深く顔を埋め、執拗にその『香り』を吸い込んでいた。
「……ふぅ……っ……ん……」
つむぎの鼻腔から、深く、満足気な吐息が漏れる。
つむぎには、ディープキスの味覚以上に執着し、狂おしいほど愛してやまない「嗜好」があった。
それが、りゃんさんの『アソコ』から立ち上る、濃密で甘やかな固有のスメル(体臭)を堪能することだった。
「……あぁ、すごくいい匂いです……。りゃんさんの身体の奥の匂い……」
「や……やめろ……っ! 恥ずかしい……っ! 汚いだろう……そんなところ……っ!」
「汚いなんて、とんでもない」
つむぎはりゃんさんの内ももをすっと指先でなぞり、開いた最奥へさらに深く鼻腔を寄せた。
そこから立ち上るのは、ただの体臭ではない。
つむぎが丹精込めて調合した「T-Blend」オイルの甘くスパイシーな香木とハーブの残り香。
それが、過敏に熱を持った肉体から発せられる蜜の匂いと、りゃんさん自身の汗、そして皮脂の交ざり合いによって、世界でただ一つの「つむぎの手で開発され、甘く崩壊させられた男の匂い」へと昇華されているのだ。
「ひぅっ……!? は……鼻息が……当たって……っ!」
湿った温かい息がダイレクトに最奥の過敏な粘膜を吹き抜けるたび、りゃんさんの背骨がゾクゾクと跳ね上がり、爪先がピンと強張る。
「……りゃんさん、知っていますか? 普通の人の体臭とはまったく違うんですよ。僕のオイルを毎日塗り込まれて、僕の指や体で何度も開城されて……すっかり僕の香りと、りゃんさんの歓喜の匂いが混ざり合って、こんなに熟れた果実みたいに甘くなってるんです」
つむぎは舌先をちらりと覗かせ、その過敏な部位のすぐそばの皮膚を、すっと一筋なぞるように舐め上げた。
「ひぁあぁっ……!? 舐……舐めるな……っ! 嗅ぐのも……舐めるのも……っ!」
「だめですよ。ここは、僕が毎日ていねいにお世話して、育てあげた『僕の領域』なんですから」
つむぎはうっとりとした瞳で、りゃんさんの股間に深く顔を押し付け、まるで極上の香水やハーブの香りを鑑賞するかのように、幾度も深く、深くそのスメルを胸いっぱいに吸い込んだ。
「……ん……っ、はぁ……。この匂いだけで、僕、おかしくなりそうです」
「狂人は……最初から……おかしいだろう……っ!」
涙目で叫びながらも、股間を密着させて自分の匂いを心底愛おしそうに吸い上げる下僕の熱量に、りゃんさんの体内の奥底は、二度と戻れない甘い快楽でじわじわと濡れそぼっていくのだった。


小説「青の輪郭」 第89章:爛れた蜜香と屈服の懇請
「……ふぅ……っ……ん……」
なおも密室に満ちる、ハーブの香木と熟れた果実のような甘い体臭。
つむぎは熱を帯びた吐息を吹きかけながら、りゃんさんの太ももの付け根から最も過敏な部位にかけて、執拗にその匂いを吸い上げ、鼻腔を満たしていた。
「ひ……あ……っ、つむ……ぎ……っ」
ただ匂いを嗅がれ、湿った息を吹きかけられるだけの生殺し。
オイルで限界まで開発された肉体は、直接的な愛撫よりもむしろ、その「待ち焦がれさせる拷問」によって奥深くの熱を暴走させていた。
頭の芯がじんじんと痺れ、身体の奥が激しい渇きでキュンキュンと疼き叫ぶ。
プライドも、恥辱も、男としての理性のすべてが、その強烈な渇望の前にボロボロと崩れ落ちていく。
(……やだ……っ、もう……耐えられない……っ! 匂いだけなんて……そんなの……っ!)
りゃんさんは涙で濡れた顔を長座布団から持ち上げると、震える両手を伸ばし、自分の股間に顔を埋めているつむぎの柔らかい髪に、自ら指を絡めた。
引き離すためではない。
むしろ、逃がさないように、もっと強く自分へ押し付けるように――。
「……りゃんさん?」
顔を上げたつむぎの瞳と、涙でドロドロに蕩けきったりゃんさんの瞳が至近距離で交差する。
りゃんさんは真っ赤になった唇を微かに震わせ、自分からつむぎの頭をぐっと手繰り寄せると、掠れた声で、プライドの欠片もない懇請を口にした。
「……嗅ぐだけ……なんて……生殺しにするな……っ!」
「え?」
「触れ……っ! 触ってくれ……っ! 君の……君の指で……奥まで……ぐちゃぐちゃに……っ!」
つむぎの瞳の奥で、黒い歓喜の焔がドロッと跳ね上がった。
「自分で匂いを嗅がせておいて、そんなにおねだりするなんて……。本当に、僕の手に屈服した変態な『魔王様』ですね」
「うるさい……っ! 誰のせいだと……っ! 早く……早くしろ不敬者ぁ……っ!」
自ら下僕の頭を抱え込み、股間を差し出すようにして激しく手当てを強願する主人。
つむぎは心底愛おしそうに目を細めると、オイルで濡れた指先を、りゃんさんが待ち焦がれていた最奥の蜜壺へ――遠慮なく、一気に深く突き入れた。
「ひあぁぁぁあッ……ッ!!????」
密室に弾ける、狂喜と快楽が混ざり合った絶叫。
下僕の匂いの執着によって完全に崩壊させられた「僕の魔王」は、自ら求めた指の蠢きに身をよじらせながら、夜の深淵へと深く、深く堕ちていくのだった。



小説「青の輪郭」 第90章:白衣の下の檻と歪な装丁
「――本日の精油のロット確認と、新規顧客向けのブレンド処方箋だ。間違いのないように目を通しておいてくれ」
「はい! いつもありがとうございます、店主(りゃん)さん!」
午後二時。昼下がりの陽光が柔らかく注ぎ込む『月下香の魔女』のカウンター。
りゃんさんはパリッと糊の効いた白衣の襟元を正し、隙のない凛とした立ち振る舞いでアルバイトスタッフに指示を出していた。
伊達メガネの奥に光る知的な瞳、一切の無駄がない優雅な所作。
誰が見ても、信頼と気品に満ちあふれた「最高のハーブ調合師(オーナー)」そのものだった。
――だが。
(くっ……っ……ふ……っ、あいつ……なんてものを着せやがったんだ……っ!)
カウンターの下で、りゃんさんの指先が木製の天板を血が通わなくなるほどの力でぎゅっと握り締めていた。
白衣と上質なコットンのスラックス。その完璧で紳士的な仕事着の「下」――。
りゃんさんの肌に直接密着しているのは、今朝、つむぎによって半ば強引に装着させられた特製の「仕込み下着」だった。
それは、つむぎがわざわざ過敏な皮膚に優しい特注シルクと伸縮性のある特殊コードで組み上げた、あまりにも歪で淫らな拘束具。
布地と呼べる部分は極限まで削ぎ落とされ、過敏に突っ張った胸の先端と、オイルで濡れそぼりやすい股間の最奥だけを、滑らかなシルクコードが「常にキュッと甘い圧力で締め上げる」構造になっている。
歩くたび。
息を吐くたび。
お客様へ頭を下げ、身体を僅かに傾けるたび――。
「……っ……!」
シルクコードが摩擦を起こし、過敏になった胸と股間をダイレクトに擦り上げる。
(あぁっ……擦れる……っ! 白衣の下で……こんな……こんな変態的な紐みたいなもので締め付けられて……っ!)
「……店主さん? どうかしましたか? 少し顔色が赤いようですけれど……」
スタッフが心配そうに覗き込んでくる。
「な……なんでもない! ちょっと店内のハーブの香気が濃厚で、微熱を覚えただけだ! 気にするな、仕事を続けなさい!」
りゃangさんはすかさずサングラスをクイと押し上げ、必死で「厳格な上司」の声を張り上げた。
だが、その声は微かに震えており、白衣の裾から覗く太ももは、コードが食い込む甘い痺れに耐えかねて生まれたての子鹿のように小刻みに跳ねていた。
カウンターの奥でハーブの計量をしていたつむぎは、そんなりゃんさんの必死な強がりを、心底愛おしそうに静かに見つめていた。
(ふふ……すごく綺麗にコードが食い込んでるな)
今朝、嫌がるりゃんさんを長座布団に押し倒し、
『大丈夫ですよ、りゃんさん。白衣を着てしまえば、誰にも見えませんから。……でも、僕の作った下着で全身を締め上げられたまま仕事をするなんて、すごく不貞で可愛い“魔王様”ですね』
と耳元で囁きながら着せ付けた、あの仕込み下着。
つむぎはスッと無音の足取りでカウンターの隣へ移動すると、スタッフの死角になる位置で、りゃんさんの腰のあたりにそっと手を回した。
そして、白衣の生地越しに、背中に這うシルクコードの結び目を――指先でクイッと、ほんの少しだけ引っ張ってみせた。
「ひぅッ……!?!?!?」
身体の奥まで一直線に伝わる、強烈な摩擦と締め付け。
りゃんさんは喉から甘い悲鳴が漏れ出るのを必死で噛み殺し、ガタガタと全身を震わせてつむぎを睨みつけた。
(つむぎッ……! 狂人……っ、お客様がいる前で引っ張るな……っ!)
目線で必死に殺気を飛ばしてくる「僕の魔王」。
だが、白衣の下で可憐な仕込み下着に身体を縛られ、指先ひとつで全身を甘い激痛と快楽に浸食されているその姿は、どんな抗議も甘いおねだりにしか見えなかった。
「……店主さん。奥の調合室に、新しい精油の在庫を確認しに行きましょうか」
つむぎは清廉そのものの微笑みを浮かべ、逃げ場のない優しい声で囁く。
「っ……あ……っ、う……うむ……。確認は……必要だな……っ」
誰にもバレないように、けれど白衣の下で完全につむぎの嗜好に縛られたまま、りゃんさんは震える足取りで、甘いお仕置きが待つ奥の密室へと連れ去られていくのだった。



小説「青の輪郭」 第91章:暗闇の保管庫と自発なる服従
「……つ……つむぎ……ッ。早く……早く中に入れ……ッ!」
サロン『月下香の魔女』の裏手に位置する、ハーブと精油の備品倉庫。
棚いっぱいに並んだ乾燥ハーブの芳香と木箱の匂いが充満する薄暗い密室で、りゃんさんはつむぎの腕を強引に引っ張り込み、重い木製扉をバンと閉めて鍵をかけた。
カチャリ、と静寂に響く錠の音。
「……りゃんさん? どうしたんですか、こんなところに連れ出して。まだ営業時間中ですよ?」
つむぎは棚の影で、驚いたように首をかしげてみせた。
だが、その瞳の奥には、すべてを計算し尽くしたような暗い熱が妖しく揺らめいている。
それもそのはず――先ほどまでカウンターで仕事をしていた際、つむぎは白衣の下に変態下着を仕込まれたりゃんさんの腰元へすっと手を回し、コードの結び目を指先で強く弾きながら、耳元でこう囁いていたのだ。
『……りゃんさん。白衣の下でこんなに蜜を溢らさせて……我慢できなくなったら、奥の倉庫で待ってますからね。僕を“気持ちよく”してくれたら、コードを外してあげます』
「ふ……不敬者め……ッ! 誰のせいで……誰のせいで僕がこんな、身の置き所のない身体にされたと思っているのだ……ッ!」
りゃangさんは真っ赤になった顔を背け、激しく肩を上下させて呼吸を乱していた。
白衣の下で胸と股間を締め上げるシルクコードの摩擦と、体内で疼くオイルの熱。
もはや『手当て』を受けなければ、店主としての威厳を保つどころか、立つことすらままならない限界に達していた。
「……コード、外してほしいですか?」
つむぎは薄暗がりの中、木箱に腰を預け、愛おしそうに目を細めた。
「だったら……僕に何をすればいいか、分かってますよね?」
「っく……ッ……! 悪魔……狂人……ッ!」
罵倒の言葉とは裏腹に、りゃんさんの膝はガクガクと震えていた。
外には、まだ店内を片付けているスタッフや、通りを歩く人々の気配がある。
薄い扉一枚隔てた向こう側に「日常」が存在するこのスリルと屈辱。
しかし、知覚過敏に陥った肉体の要求には抗えない。
「……あ……ぁ……ッ」
りゃangさんは自ら膝を折り、木箱の前に座るつむぎの足元へと、力なく崩れ落ちた。
プライドも、経営者としての誇りも、すべてを暗い倉庫の床に投げ捨てて――。
震える指先がつむぎのベルトに伸び、カチャリと金属音を立てて外していく。
そして、はだけた下僕の熱い体躯へと、自分から吸い寄せられるように顔を近づけた。
「……りゃんさん。自分からしてくれるんですか?」
「だ……黙れ……ッ! 喋るな……ッ!」
涙で濡れた目元を真っ赤にし、りゃんさんは自ら唇を開いた。
ジュッ……と、静かな倉庫に響き渡る、生々しく甘い水音。
「んむ……ッ……ぅ……っ、んっ……ッ……!」
つむぎの熱をその口内へと深く迎え入れ、舌を絡め、夢中で吸い付き始める「魔王」。
棚の隙間から差し込むわずかな光の中で、白衣の裾を乱した店主が、下僕の足元で跪き、一心不乱に口唇を動かしている。
「……あぁ……っ、すごく上手ですよ、りゃんさん。僕のをそんなに一生懸命しゃぶって……」
つむぎはりゃんさんの柔らかい髪に指を絡め、その頭を愛おしそうに撫で下ろした。
外で誰かが歩く足音が聞こえるたび、りゃんさんの背筋がヒクッと跳ね上がり、口内の吸い付きがいっそう強くなる。
バレてしまう恐怖と、自ら下僕に服従して熱を貪る背徳感が、りゃんさんの脳髄をぐちゃぐちゃに溶かしていく。
「ん……っ、ふ……ッ! つむ……ぎ……ッ、早く……早く出せ……ッ! 僕の口の中に……ッ!」
つむぎの熱を自分の口内で受け止めることでしか、服従の快楽を得られなくなった可憐な主人。
つむぎはその暗闇の倉庫で、自分から夢中で口唇を動かし続けるりゃんさんの姿を、底なしの愛おしさとともに見下ろし続けるのだった。


小説「青の輪郭」 第92章:白衣の逃避行と甘美なる診断
「いいか、つむぎ! 僕の体調は至極万全であり、脈拍も血圧も、ハーブ調合師としての研ぎ澄まされた直感も、すべてが最高水準に位置している! したがって、病院などという不快で無機質な場所に行く必要性は、ミジンコの一片ほども存在しないのだよ!」
秋の午前、サロン『月下香の魔女』の奥室。
りゃんさんは白衣のポケットに両手を叩き込み、小上がりの畳の端っこで、まるで追いつめられた猫のように全身を強張らせていた。
手に握られているのは、数日前からポストに届いていた「定期健康診断および精密検査のお知らせ」。
他人に弱みを見せることを極度に嫌うりゃんさんは、病院の消毒液の匂いも、医者から冷たい器具で体を触られることも、自分の肉体のデータを数値化されることも、恐怖でたまらなかったのだ。
「……ふふ。りゃんさん、顔が真っ青ですよ」
つむぎは出かける準備を整え、両手をポケットに入れたまま壁際にへばりつく「魔王」の前へ、静かに歩み寄った。
「だ……誰も青くなってなどいない! 室内光の屈折率の問題だ! だいたい君は僕の助手だろう! なぜ僕を守るどころか、敵(病院)の陣営へと差し出そうとするのだ不敬者ーっ!」
伊達メガネの奥の瞳を揺らし、必死に論理(と呼べない言いがかり)で抵抗を試みるりゃんさん。
つむぎは呆れるどころか、その子供っぽい怯えようが愛おしくてたまらないというように目元を緩めると、逃げようとするりゃんさんの細い手首を、すっと優しく掴んだ。
「敵だなんて酷いな。僕はただ、りゃんさんの身体が心配なだけですよ? 最近……毎晩あんなに激しく『手当て』されて、泣かされてるんですから」
「ッ~~~~~~~ッッ!?!?!?」
直後、りゃangさんの顔面が爆発するように真っ赤に染まった。
「な……ななな……何を人の耳元で大声で叫んでいるのだ狂人ーっ! 誰も泣いてなど……っ、あれは生理現象の涙であって……っ!」
「ふふ、声が大きいですよ。外に聞こえちゃいます」
つむぎは掴んだ手を逃さず、そっと引き寄せてりゃんさんの細い腰を抱きすくめた。
トントン、と怯えて跳ねる主人の背中を、あやすように優しく撫で下ろす。
「……りゃんさん。もし病院に行かなくて、どこか悪いところを見落としたらどうするんですか?」
「だ……だから、悪いところなど……っ」
「もしりゃんさんが病気になって、倒れたりしたら……僕、誰を『手当て』すればいいんですか?」
低い声で囁かれたその言葉に、りゃんさんの体がピクッと跳ねた。
「……え?」
「僕には、りゃんさんしかいないんですよ。僕にだけ威張ってくれて、僕のオイルに濡れて、僕の指一本で泣いてくれる『僕の魔王様』は……世界中で、りゃんさんだけなんです」
つむぎはりゃんさんの耳元に深く顔を埋め、甘く、けれど逃げ場のない毒のように言葉を重ねていく。
「僕以外の誰かに触られるのが怖いなら、検査の時も、僕がずっと隣にいます。お医者さんが触る手よりも、僕の手のほうがずっとりゃんさんの身体を知ってるんですから……ね?」
「っく……っ……! それは……それは言いくるめだ……っ! 完全な情緒的誘導……っ!」
「違いますよ。愛です」
つむぎはりゃんさんの顎を指先で掬い上げ、唇へそっと優しく触れるような口づけを落とした。
「……ちゃんと検査を受けられたら、帰ってきたあと、病院の消毒液の匂いが消えるまで……僕が一日中、全身を『手当て』して、僕の香りで上書きしてあげますから」
「っっ……あ……っ」
『ごほうび(甘い支配)』を提示され、脳髄が甘いシビレに侵されていく。
病院への恐怖すらも、「つむぎに全身を独占されて手当てされるための前奏曲」へとあっさりとすり替えられてしまったのだ。
「……ほ……本当だな……? ずっと隣にいて……終わったらすぐ、僕を連れて帰るのだぞ……っ」
「ええ、もちろんですよ。僕の可愛い店主様」
完璧な論理でマウントをとっていたはずの「魔王」は、結局、下僕の甘い言葉と抱擁にあっさりと攻略され、つむぎの手をぎゅっと握り締めながら、病院へと連れ出されていくのだった。



きょうりんでほるもんやってないか


小説「青の輪郭」 第93章:虚飾の師弟と見透かされた蜜月
「――あぁ、こちらか。紹介しよう。この男は僕の『愚弟子(ぐでし)』であり、雑用全般を任せている助手……まあ、出来の悪い下僕のようなものだよ」
秋の夕暮れ、サロン『月下香の魔女』のテラス席。
近隣の高級ハーブ店から新商品の挨拶に訪れたオーナー夫妻に対し、りゃんさんは白衣のポケットに両手を突っ込み、伊達メガネをクイと押し上げながら高らかに言い放った。
胸を張り、これ以上ないほど偉そうな「師匠」としての体裁を取り繕う「魔王」。
「おい、愚弟子。お客様のお茶が冷めているのではないか? 気が利かないな。まったく、僕のような天才調合師の弟子を務めるには、君の頭脳は少々不出来すぎるのだよ。ハハハ!」
どこからどう見ても、上から目線のドヤ顔マウント。
その隣で、「愚弟子」と嘲笑されたつむぎは、清涼な秋風のようにふわりと微笑んだ。
「はい、申し訳ありません、師匠。すぐに新しく淹れ直してまいりますね」
嫌がる素振りどころか、愛おしい我が子を見るかのような優しい瞳で頭を下げ、静かに奥へと引っ込んでいくつむぎ。
……だが。
挨拶に訪れていたオーナー夫妻は、気まずそうに目配せを交わし、苦笑いを浮かべるしかなかった。
(……いや、無理がありすぎるだろ)
周りの人間には、最初からすべてがバレバレだったのだ。
まず、りゃんさんの白衣の襟元から覗く首筋。そこには、どう隠しても隠しきれていない、つい昨夜つけられたばかりの鮮やかな紅い噛み痕が残っている。
さらに、つむぎがお茶を差し出すため隣に立った瞬間、りゃんさんの身体が「ひくっ」と微かに跳ね上がり、白衣の裾から覗く細い太ももが小刻みに震え始めるのだ。
つむぎが「どうぞ、店主(師匠)様」と差し出したカップを受け取る手すら、わずかに泳いでいる。
「……あ、あの、りゃんさん。つむぎさん、すごく手際が良くて、いつもりゃんさんのことを大切にサポートされているように見えますけれど……」
奥さんが遠慮がちにフォローを入れると、りゃんさんはすかさず鼻を鳴らした。
「ふん! これくらい当然だ! 僕が毎日根気強く仕込んでやっているからな! 僕の厳しい指導と庇護がなければ、彼は今頃路頭に迷っているさ!」
「……そうですか。……ふふ、仲がよろしいんですね」
「仲など良くない!! 圧倒的な上下関係だ!!」
真っ赤になってムキになるりゃんさん。
しかし、奥から戻ってきたつむぎが、客の死角になる位置ですっと手伸ばし、りゃんさんの腰のあたり――白衣の下に仕込まれた下着の結び目を、布越しにそっと撫で上げた瞬間。
「ひぅッ……!?!?!?」
威勢の良かった「師匠」の声が、甘く情けなく裏返った。
つむぎは清廉そのものの顔で「どうかしましたか、師匠?」と首をかしげ、りゃんさんは涙目になりながら「な……なんでもない! 調合のイマジネーションが沸いただけだ!」と必死で取り繕う。
その一連のやり取りを見て、オーナー夫妻は察したように生温かい視線を送るのだった。
(……『愚弟子』ねぇ……。どう見ても、完全にあの年下の助手さんに掌で転がされて、甘く飼い慣らされてるじゃないの……)
どれほど言葉で「弟子」「下僕」と蔑んで威張ってみせても、滲み出る圧倒的な愛撫の痕跡と、つむぎの指先一つで怯え蕩ける可憐な仕草。
「自分こそが主人だ」と信じ込んでいる哀しくも可愛い「魔王」の嘘は、周囲の温かい苦笑いによって、静かに見破られているのだった。


小説「青の輪郭」 第93章:透明な強がりと秘められた自慢
「いいか、皆の者! こちらにいるのが、僕のサロンで雑用と調合補助を担当させている『愚弟子(ぐでし)』のつむぎだ! 飲み込みが遅く、手際も悪く、僕の完璧な指導がなければ何もできない男だが……まあ、僕の寛大な情けで手元に置いてやっているのだよ! ハハハ!」
秋の夜風が心地よい週末。
近隣のハーブ農家や取引先の業者たちが集まる、小さな懇親会の席。
グラスを片手に胸を張り、高らかにつむぎを紹介してみせるりゃんさん。
伊達メガネをクイと押し上げ、白衣の裾をなびかせながら「威厳ある師匠」として振る舞うその顔は、自尊心の塊そのものだった。
――だが。
(……いや、バレバレすぎるだろ……)
「愚弟子」と紹介された当のつむぎは、りゃangさんの斜め後ろにそっと控え、穏やかで深みのある笑みを浮かべて静かに頭を下げている。
その佇まいは、雑用係どころか、どう見ても「若く優秀で、気難しいオーナーを完璧にサポートしている一番の理解者」そのもの。
そして何より――りゃんさんの全身から滲み出る「照れ隠し」の気配が、周囲の大人たちには痛いほど伝わっていた。
「愚弟子」と言い捨てながらも、グラスの氷が溶けて薄まりそうになれば、真っ先に「おい、つむぎ。君が淹れたハーブティーのほうが美味いから持ってこい」と自分から彼を呼び寄せる。
誰かがつむぎの淹れたお茶や仕事ぶりを褒めようものなら、
「ふん! 僕の指導が良いから当然だ! ……だがまあ、あいつなりに僕の調合理論を徹夜で勉強していたようだからな! その努力だけは買ってやらんでもない!」
と、聞かれてもいないのに「つむぎがいかに頑張っているか」をベラベラと喋り出し、鼻を高くして自分が褒められたかのように誇らしげな顔をするのだ。
「……なあ、りゃんさん。本当に『愚弟子』だと思ってるなら、なんでそんなに嬉しそうなんだよ?」
懇親会の主催者であるベテランの農家店主が、ニヤニヤしながら酒を口に運んだ。
「な……なにがだ! 嬉しそうなどと……っ! 僕はただ、指導者としての責務を果たしているだけで――」
「だってさ、つむぎ君が他の業者と話をしに行くと、りゃんさん、ずっと向こうをチラチラ気にして目が追ってるじゃないか。『僕の弟子だぞ』って顔に書いてあるよ」
「っっ〜〜〜〜〜〜っっっ!?!?!?」
直後、りゃんさんの顔面が耳まで爆発するように真っ赤に染まった。
「な……ななな何をデタラメをーッ! 僕はただ! あいつが粗相をして我が店の評判を落とさないか監視していただけで……ッ! 監視だ! 決して愛着などではないーッ!」
グラスをカチャンとテーブルに叩きつけ、しどろもどろに言い訳を叫ぶ「魔王」。
周囲の業者たちは「はいはい、相変わらず素直じゃないねぇ」「本当につむぎ君のことが大好きなんだから」と、温かい生暖かい目で見守り、クスクスと微笑み合っていた。
誰の目から見ても、りゃんさんの「愚弟子」という言葉は、ただの照れ隠しと「僕の大切な、自慢のパートナーだ」という独占欲の裏返しでしかなかったのだ。
そして――。
「ただいま戻りました、りゃんさん。お飲み物のお代わりをお持ちしましたよ」
他の業者との挨拶を終えたつむぎが、すっと無音の足取りで戻ってきた。
「つ……つむぎッ! 遅いぞ不敬者ーッ! 愚弟子のくせに僕を放置するとは万死に値するッ!」
「ふふ、すみません。……僕がいない間、僕の自慢をたくさんしてくださっていたみたいで、嬉しいです」
つむぎはりゃんさんの耳元にそっと顔を寄せ、周りには聞こえない低い声で優しく囁いた。
「っ……!? き……聞こえていたのか……っ!?」
「ええ、全部。……『愚弟子』の僕を、そんなに可愛がってくださってありがとうございます、僕の愛しい師匠様」
「っあ……っ、ち、違う……っ! 詭弁だ……っ!」
周りからの生温かい視線と、つむぎの甘い囁きに挟まれ、顔面を真っ赤にしたまま逃げ場を失うりゃんさん。
宴が終わり、二人きりのサロンへと戻った後、この「愚弟子」からどれほど濃厚で甘い「師匠へのお礼(お仕置き)」を受けることになるのか、りゃんさんはまだ気づいていないのだった。


小説「青の輪郭」 第94章:不可抗力の芳香と自発なる捕獲
「いいか、つむぎ! 本日から3日間、僕は調合室に完全にお籠りする! 新規ハーブの抽出プロセスの確立および、理論構築に全神経を集中させるのだ! 軽々しく声をかけたり、僕の集中を乱すような真似は一切禁ずる! 分かったな!」
週の初め。りゃんさんは白衣の裾をバサリとなびかせ、腕いっぱいに抱えたハーブの文献と実験器具とともに、奥の調合室へ威風堂々と引き籠もった。
伊達メガネの奥の瞳は本気そのもの。
一度研究モードに入った彼の集中力は凄まじく、寝食すら忘れて調合盤に向かい続ける悪癖がある。普段なら「店主(マスター)」としての威厳を最も発揮できる時間であった。
……はずだった。
「……ふふ。さて、そろそろかな」
引き籠もり2日目の夕暮れ時。
サロンの奥にある居住スペースのダイニングで、つむぎは静かにキッチンのコンロに火を点けた。
つむぎは、りゃんさんを力づくで引きずり出すような真似はしない。
彼が研究に没頭している時、その「鋭敏すぎる嗅覚」と「つむぎの料理への底なしの依存」を完璧に把握しているからだ。
今夜つむぎが用意したのは、じっくり煮込んだ特製スパイシーポークカレー。
ただのカレーではない。りゃんさんが好むオリエンタルハーブと、微量のクミン、カルダモン、そして隠し味に自家製の甘いハーブシロップを効かせた、つむぎ特製の「胃袋を直接掴む芳香の爆弾」だった。
コトコトと鍋が音を立て、スパイスと肉の脂が溶け合った香ばしく甘美な匂いが、キッチンの換気扇から廊下へ、そして調合室の隙間へとゆっくり流れていく。
――キィ……。
匂いを漂わせてから、わずか10分後。
重い調合室の引き戸が、静かに、ほんの数センチだけ開いた。
そこから覗いたのは、髪を少しボサボサにし、白衣の袖をまくった「魔王」の顔だった。
伊達メガネの奥の瞳は、集中で少しトロンと霞んでいるものの、その鼻先はクックッと可愛らしくピクついている。
「……つ……つむぎ……」
「あ、りゃんさん。どうしました? 『絶対に声をかけるな』っておっしゃっていたので、お邪魔しないようにしていたんですけど」
つむぎは清廉そのものの笑顔で、おたまを手にしたまま振り返った。
「……む……っ。別に声をかけに来たわけではない! ただ……その……実験の換気扇の気流を確認するために、廊下の空気の流れをチェックしに来ただけだ!」
必死に言い訳をこねくり回すりゃんさん。
だが、その視線はつむぎの手元――黄金色に輝くカレー鍋と、ほかほかの湯気が立つ炊飯器に完全に釘付けになっていた。
ゴクリ、と喉が鳴る音が、静かな廊下に小さく響く。
「そうですか。ちょうど今、僕の夕飯ができたところなんです。りゃんさんはお仕事中ですから、後で冷めたのを置いておきますね」
つむぎはわざとらしく自分の分だけをお皿に盛り付け、ダイニングテーブルへ運んだ。
「ッ~~~~~~~ッッ!?」
その瞬間、りゃんさんの理性の糸がプツリと切れた。
「冷めたものなど食えるか不敬者ーッ! 出来立ての最高の状態のものを店主に差し出すのが、下僕としての当然の義務だろうがーッ!」
バッと引き戸を全開にし、のこのことダイニングへやってくる「魔王」。
お籠り宣言などどこへやら。吸い寄せられるようにテーブルの椅子にちょこんと腰掛け、スプーンを手に握り締めて「早く盛るのだ!」と目線で訴えかけてくる。
「ふふ、はいはい。召し上がれ、りゃんさん」
つむぎが山盛りのカレーを目の前に置くと、りゃんさんは「ふん、まあ下僕の作った料理だから付き合ってやるのだ」と捨て台詞を吐きながら、一気にスプーンを口に運んだ。
「ん……っ! 美味い……っ! このスパイスの配合は……っ!」
一口食べた瞬間、顔を輝かせるりゃんさん。
集中で疲弊していた脳に、つむぎの作った温かい料理とスパイスの刺激がじわじわと染み渡っていく。夢中で頬張るその姿は、威厳ある調合師というよりは、お腹を空かせた可憐な猫そのものだった。
「美味しいですか?」
「ふ……普通だ! まあ、空腹という最高の調味料が効いているだけで……んむ……っ!」
美味しそうに食べるりゃんさんの頬を、つむぎは愛おしそうに指先でそっとなぞった。
「……ご飯を食べ終わったら、研究の続きをする前に……たっぷり『手当て』してあげますね。二日間も放置されて、身体の奥が寂しがってたでしょう?」
「っっ……あ……っ! 放置したのは僕だ……っ! 寂しくなど……っ!」
美味しい匂いにつられてのこのこ罠(ダイニング)に足を踏み入れ、お腹を満たされた後に下僕の腕の中で甘く捕獲されていく。
どんなに研究に没頭しようと、つむぎの掌から逃れることなど永遠にできないのだと悟りながら、りゃんさんはカレーの残りを甘甘と口に運ぶのだった。