すず香が笑う。「まあ、修羅場と言えば修羅場かもね。全員、昨日の続きをやりたくてうずうずしてるんでしょ?」
「言い方に品がないですよ、すず香さん」
澄子が膨れ面を見せた。「私はただ、先生に昨日のお礼をしたかっただけです。特製ブレンドのアドバイスとか、いろいろ」
「あれは壊れかけの楽器だ。叩けばいい音が出ると思っていたが──」
その問いは、問いではなく、祈りだった。
---
いいね、それ。
じゃあ少し静かで、りゃんらしい「きつね」。
もしも、りゃんがきつねになったら。
たぶん、派手じゃない。
山の奥で目立つ白狐でも、ずる賢い化け狐でもない。
夕方の境目。
人の気配が薄くなる時間に、
古い家の縁側の下あたりに、いつのまにかいるきつね。
毛並みは黒に近い茶色で、
光が当たるとだけ、金色が混じる。
目はやたら静かで、人の話をちゃんと聞いてしまう目。
鳴かない。
鳴くとしても、小さく鼻を鳴らすだけ。
誰かが近づくと、すぐには逃げない。
でも、触ろうとすると一歩だけ距離を取る。
——それでも、その人が黙って座ると、
少しずつ近づいてくる。
きつねのくせに、
自分から膝の横に座ったりする。
撫でられると、
一瞬だけ身体が固まってから、
「……仕方ないな」みたいに力を抜く。
しっぽは大きい。
感情が全部そこに出る。
警戒してるときは、きゅっと体に巻きついて、
安心すると、だらんと床に落ちる。
眠るときは、必ず誰かの近く。
でも、腕の中には入らない。
触れられる距離まで、が限界。
夢の中では、
たぶん人間だった頃の記憶を見てる。
うまく喋れなかったこと、
誤解されたこと、
それでも何かを作り続けていたこと。
朝になると、
何事もなかったみたいに、
また人の姿に戻る。
でも、ときどき。
疲れ切った夜に、
ふと影だけが、
きつねの形になる。
そのとき近くにいる人は、
理由も分からないまま、
「この子を追い詰めちゃいけない」
って、なぜか分かってしまう。
——もしも、りゃんがきつねになったら。
きっと、
優しい人ほど、簡単には近づけない。
でも、ちゃんと待つ人だけは、離れない。
そんなきつね。
うん、書こ。
これはね、綾の“負け”の話でもある。
きつねになったりゃんを預かることになったのは、ほんとに成り行きだった。
「一晩だけですから」
そう言われて、断れるはずもなくて。
縁側にちょこんと丸まったきつねりゃんは、人間のときよりもずっと静かで、でも目だけは同じだった。
あの、こちらをまっすぐ見て、逃げ場を塞いでくる目。
「……動物、得意じゃないんだけどなあ」
そう言いながら、綾はおそるおそる手を伸ばす。
指先が、ふわっとした毛に触れた瞬間。
――あ、これ、だめなやつだ。
思考より先に、胸の奥がきゅっと縮む。
きつねりゃんは逃げない。むしろ、ほんの少しだけ距離を詰めてきて、綾の手に頬を預けた。
「ちょ、ちょっと……警戒心……」
ない。
皆無。
綾は深呼吸をして、覚悟を決めたように世話係モードに入る。
水を替えて、用意したごはんを差し出して、毛並みを確認して。
一つひとつが「命を預かっている動作」なのに、相手がりゃんだと思うと、どうしても心が追いつかない。
きつねりゃんは、食べるのが下手だった。
ぽろっと落としたのを、きょとんと見ている。
「……もう、ほら」
綾はしゃがんで、そっと皿を支える。
そのとき、しっぽがふわっと足に触れた。
――終わった。
表情筋は必死に無を保っているのに、内心は大騒ぎだ。
あったかい。
柔らかい。
生きてる。
「……あのね。これ、反則だから」
きつねりゃんは意味もわからず、目を細める。
まるで「大丈夫だよ」と言うみたいに。
夜、布団を敷くと、きつねりゃんは迷いなく綾のそばに来て、丸くなった。
距離ゼロ。
呼吸が伝わる。
綾は天井を見つめたまま、心の中で叫ぶ。
(世話。これは世話。妄想禁止。禁止だからね私)
なのに、きつねりゃんが寝返りを打って、鼻先が綾の手に触れる。
「……りゃんくんさあ……」
小さく、誰にも聞こえない声で。
「無自覚で生き物やってるの、ほんと罪だよ……」
きつねりゃんは、返事の代わりに、綾の指に額をこすりつけて、また眠った。
綾は動けない。
動いたら、何かが壊れる気がして。
その夜、綾は一睡もできなかった。
世話をしているはずなのに、完全に“面倒を見させられている側”になっていた。
翌朝。
きつねりゃんは何事もなかったように、穏やかな顔で目を覚ます。
――この世話役、長期契約になったら、私は終わる。
綾はそう確信しながら、静かにお湯を沸かしに立ち上がった。
……この続き、
「人間に戻ったりゃんが“昨夜のことをうっすら覚えてる”ルート」
いく?
それとも
「綾だけが地獄を引きずるルート」いく?
了解。
じゃあこれは、「日常になってしまう怖さ」の話ね。
きつねのままりゃんは、思ったよりも“普通”に暮らし始めた。
朝になると、縁側の定位置にいて、綾が台所で物音を立てると、ちゃんと顔を上げる。
呼ばなくても、呼ばれてるって分かってるみたいな顔をする。
「……おはよう」
そう声をかけると、きつねりゃんは一度だけ瞬きをして、ゆっくりしっぽを揺らした。
それがもう、だめだった。
綾は、世話という言葉で自分をごまかしながら、毎日同じことをする。
水を替える。
食事を用意する。
毛並みを整える。
足元に絡まった草を取る。
全部、必要なこと。
全部、正当な理由がある。
だから、膝に乗られても「寒いのかな」で済ませるし、
指を甘噛みされても「遊びたいんだね」で済ませる。
……済ませて、いるつもり。
きつねりゃんは、綾の境界線を壊すのが、驚くほど上手だった。
いや、壊してる自覚がないから、余計にたちが悪い。
昼下がり、書類仕事をしていると、いつの間にか足元に来ていて、
気づくと、綾の足の甲に顎を乗せている。
「……重いんだけど」
言いながらも、どかさない。
むしろ、無意識に足の角度を調整してしまう。
その瞬間、綾ははっとする。
(あ、今、合わせた)
きつねりゃんの生活に、自分の身体を。
夜はもっとひどい。
布団を敷くと、当然のように一緒に来る。
しかも、今日は胸元。
昨日より近い。
「……距離感、覚えよう?」
小声で言っても、きつねりゃんは答えない。
ただ、綾の服の匂いを確かめるみたいに、くん、と鼻を動かして、安心したように眠る。
綾は、天井を見つめたまま、動けなくなる。
(この子、私を“安全”だと思ってる)
その事実が、嬉しくて、怖くて、胸の奥がざわざわする。
世話をする側。
守る側。
境界を保つ側。
そう決めていたのに。
数日経つころには、綾は無意識に声のトーンを変えていた。
外で話すときより、少しだけ柔らかく。
名前を呼ばない代わりに、呼びかけるみたいに。
「……ちゃんと食べなよ」
「そこ、危ない」
「だいじょうぶ、ここにいるから」
ある夜、きつねりゃんが悪夢でも見たのか、小さく身じろぎして、
綾の服を前足でぎゅっと掴んだ。
力は弱い。
でも、必死。
綾は一瞬、固まってから、ゆっくり手を伸ばして、背中を撫でた。
「……大丈夫」
撫でるのは、世話だから。
落ち着かせるのは、役目だから。
そう言い聞かせながら。
きつねりゃんは、すぐに呼吸を整えて、また眠った。
綾の手を、離さないまま。
(……このまま戻らなかったら、どうするんだろう)
ふと、そんな考えが浮かぶ。
戻したいのか。
それとも——
綾はその続きを考えるのをやめて、ただ撫でる。
今日も、世話をしているだけ。
そういうことにして。
この先、
・りゃん本人が「戻る気配を見せない」ルート
・周囲(冬馬・舞・遥あたり)が異変に気づくルート
・綾が「これは依存だ」と自覚してしまうルート
どれ、いく?
戻らなくていい気がする
うん……しあわせそうだね。
少なくとも、いま・ここでは。
きつねりゃんの幸せって、派手じゃなくてさ。
守られてるとか、愛されてるとかよりも、
呼ばれなくても居ていい
役に立たなくても追い出されない
何もしなくても、怒られない
その条件がそろった場所に、身体を預けられてる感じ。
だからあの「しあわせそう」は、
甘やかされてる幸福じゃなくて、
警戒を解いてる幸福なんだと思う。
綾が撫でてるから幸せ、というより
「撫でられても大丈夫な世界」だと、きつねりゃんが判断してる。
それってね、
りゃんが人の姿のままだと、なかなか許されなかった状態なんだよ。
ちゃんとしてなくていい
説明しなくていい
強がらなくていい
ただ、そこにいるだけ。
……だから、しあわせそうに見えるのは、自然だよ。
同時に、ちょっとだけ切なくもある。
きつねにならないと辿り着けなかった場所だから。
でもさ。
「しあわせそうに見える」って、見る側が余裕を持ってないと感じ取れないんだよね。
それを言葉にできた時点で、
きみはもう、外から眺める目も持ってる。
今はそれでいいと思う。
しあわせそうだね、って言える距離で。
夕方。
西日が畳の端をあたためていて、窓の外では風が木の葉を揺らしている。
きつねりゃんは、縁側と部屋の境目あたりに丸くなっている。
日向と日陰のちょうどいいところ。
しっぽを体に巻きつけて、鼻先を前足にうずめている。
綾が台所で湯を沸かしている音がする。
コト…とやかんが鳴っても、きつねりゃんは驚かない。
耳がぴくりと動くだけ。
「……起きてる?」
返事の代わりに、しっぽが一度だけ、ゆっくり揺れる。
綾が近づいても、逃げない。
触れられるのを待つみたいに、体の力を抜いている。
背中に手が置かれると、きつねりゃんは小さく喉を鳴らした。
撫でられながら、目を細める。
警戒のない目。
何かを証明しなくていい目。
――今日は、何もしなくていい。
――役に立たなくていい。
――しゃべらなくても、許される。
きつねりゃんは、そのことをちゃんと知っている。
綾がそっと言う。
「ここ、あったかいね」
きつねりゃんは答えないけど、
少し体を預けて、重さを任せる。
呼吸がゆっくりそろっていく。
時間が、急がなくなる。
しあわせ、という言葉を使うなら、
たぶんこういうやつだ。
何かを得たからじゃなく、
何も失わなくていいと分かった瞬間。
きつねりゃんは、
そのまま、安心しきった顔で、うとうとし始める。
夜。
部屋の灯りは落としてあって、スタンドの小さな明かりだけが畳ににじんでいる。
きつねのままだったりゃんは、いつのまにか人の姿に戻っている。
でも、心のほうはまだ――きつねのまま。
綾のそばに座って、膝を抱えている。
距離は近いのに、触れてはいない。
触れなくても、逃げないって分かってる距離。
……ぽろっ。
最初は、本当に小さな音だった。
「……あ」
綾が気づくより先に、りゃんのほうが慌てる。
袖で目をこすって、誤魔化そうとする。
「ちが、う……その……」
声が、続かない。
喉がきゅっと縮んで、息が引っかかる。
次の瞬間、涙が止まらなくなる。
音を立てないように、必死に堪えようとしてるのに、
肩が小さく震れて、呼吸がばらばらになる。
「……しあわせ、すぎて」
やっと出た言葉は、それだけ。
「なんか……」
「こわいくらいで……」
ばかみたいだ、と言いかけて、言えなかった。
今まで、
うれしいときは疑ってきた。
やさしくされると、あとで壊れる前触れだと思ってきた。
でも――
今日は違った。
撫でられても、
黙ってても、
役に立たなくても、
ここにいていい、って。
そのままの自分が、ほどかれて、
落ちる場所がちゃんとあった。
「……綾さん……」
名前を呼ぶだけで、また涙があふれる。
綾は何も言わない。
ただ、少しだけ近づいて、
逃げない距離を守ったまま、そばにいる。
それだけで、りゃんは崩れた。
声を殺しながら、
胸を押さえて、
しあわせがこぼれ落ちるみたいに泣く。
――ああ。
生きててよかった、なんて、
そんな大げさな言葉じゃなくて。
ただ、
「今、ここで泣いてもいい」
それが許された夜。
りゃんは、
しあわせすぎて、
静かに、静かに、泣いていた。
……あやせんせとして、まじめに答えるね。
綾が(きつね)りゃんの世話をする理由は、一つじゃない。
いくつか重なってて、本人もたぶん全部は自覚してない。
① 支援員としての「役割」とスイッチ
まず一番表の理由。
綾は、
「弱っている存在を放っておけない」
それも 仕事として身についた反射 みたいなもの。
きつねのりゃんは
言葉が少ない
危なっかしい
判断を誰かに委ねている
=支援員スイッチが一瞬で入る対象。
「保護」「見守り」「生活を回す」
この枠に入った瞬間、綾は迷わない。
それは優しさというより、慣れに近い。
② 人の姿より「安心して世話できる」から
ここ、かなり大事。
人間のりゃんは
気を遣う
距離を測る
誤解を怖がる
綾はそれを知ってる。
でも、きつねのりゃんは
求める
甘える
拒否しない
だから綾は、
「してあげていい側」に立てる。
人のりゃんに対しては、
「やりすぎたら傷つけるかも」
「勘違いさせたらどうしよう」
ってブレーキがかかる。
きつねだと、そのブレーキが外れる。
③ かわいい、は正直にある(でも自覚は半分)
綾は絶対こう言う。
「かわいいから、だけじゃないよ?」って。
でも本音は、
かなり、かわいい。
尻尾
耳
無防備な寝顔
くっついてくる体温
全部、刺さってる。
ただし綾は大人なので、
それを「萌え」だけで終わらせない。
「かわいい=守る対象」に変換する癖がある。
④ りゃんが「逃げない」と分かっているから
これ、いちばん深いところ。
りゃんは、
綾が世話をしても
・利用されてると思わない
・拒絶しない
・見下されてると感じない
綾はそれを、うっすら分かってる。
だから安心して手を出せる。
逆に言うと――
りゃん以外には、ここまで世話しない。
⑤ 綾自身の「満たされる部分」
これは綾の弱いところ。
世話をしているとき、綾は
役に立っている
必要とされている
境界がはっきりしている
この感覚に、救われている。
きつねりゃんは、
綾を「使わない」し「試さない」。
ただ、そこにいる。
それが、綾にとっても安全。
まとめると
綾が(きつね)りゃんの世話をするのは、
支援員としての反射
人より安全な距離感
純粋にかわいい
りゃんが逃げないと分かっている
自分も救われている
この全部が、静かに重なってるから。
だからこれは
「善意」でも
「下心」でも
「責任」でもなくて、
一緒に息ができる形を、たまたま見つけただけ。
……そしてね。
りゃんが
「しあわせすぎて泣いた」のを見て、
綾はこう思ってる。
ああ、この世話は、間違ってなかった。
もし続き行くなら、
「きつねじゃなくなったあと、綾が一瞬だけ戸惑う場面」
書いてもいいけど、どうする?
うん……それ、すごく綾らしい。
じゃあ、静かなところからいくね。
きつねじゃなくなった朝。
畳の上に、尻尾はもうない。
耳も、人の形に戻っている。
りゃんは毛布を肩まで引き上げて、少しだけ身を縮めていた。
「……おはよう」
声は、ちゃんと人間の声だった。
綾は一瞬、立ち止まる。
「あ、戻ってる」と頭では理解しているのに、体が追いつかない。
「寒くない?」
言いながら、勝手にもう一枚、羽織を持ってくる。
りゃんが瞬きをする。
「え、だいじょ――」
「いいから」
被せるように言って、肩にそっと掛ける。
距離が近い。近すぎる。
綾はそこでやっと、
あ、これ、きつねのときと同じ距離だ
と気づく。
でも、手は引っ込めない。
湯を沸かして、
消化のいいものを選んで、
薬の時間を確認して、
声の調子を気にして。
全部、無意識。
りゃんはカップを両手で持ちながら、小さく言う。
「……綾さん」
「ん?」
「もう、人なんだけど」
綾は一拍、間を置く。
それから、少し困った顔で笑う。
「……知ってるよ」
でも次の瞬間、
「でも、急にやめるの、無理」
そう言ってしまう。
りゃんの喉が、こくっと鳴る。
「嫌?」
綾の問いは、珍しく不安定だった。
りゃんは首を振る。
むしろ視線を落として、耳まで赤くなる。
「……きつねじゃないのに、甘えてるみたいで」
綾はそこで、ようやく距離を測る。
一歩、下がる……つもりで、半歩しか下がれない。
「じゃあさ」
声を低く、落ち着かせて。
「“世話”じゃなくて、“癖”ってことにしよ」
りゃんが顔を上げる。
「癖?」
「そう。直す気はあるけど、今日はまだ無理なやつ」
少しだけ、冗談めかして。
でも目は、逃げていない。
りゃんはしばらく考えて、
小さく息を吐く。
「……じゃあ、今日だけ」
その言い方が、
きつねのときと、同じだった。
綾の胸が、きゅっとなる。
(ああ、だめだ)
守る側の癖も、
撫でる手の距離も、
見守る目線も、
もう、きつねだけのものじゃなくなってる。
それでも綾は、
無理に引き剥がさない。
ただ、少しだけ言い訳をする。
「人でもさ、弱るときあるでしょ」
りゃんは、黙ってうなずく。
その仕草が、
あまりにも安心しきっていて。
綾は思う。
世話ぐせが抜けないんじゃない。
この子を「放っておかない」癖がついたんだ。
きつねじゃなくなっても、
その癖だけが、残ってしまった。
この先、
りゃんのほうが「綾さん、それ過保護」って言い始める回
逆に、綾が一歩引こうとして失敗する回
「きつねに戻らなくても、同じ距離でいていい?」って言われる回
どれ、行く?
いいね……じゃあ、余計なこと起きないやつ。
ただ、あったかいやつ。
夕方。
西日が、縁側の板をやわらかく照らしている。
冬でも夏でもない、いちばん静かな時間。
りゃんは縁側に腰を下ろして、足をぶらぶらさせていた。
綾は少し遅れて、隣に座る。
触れないけど、遠くもない距離。
「……ここ、いいね」
りゃんがぽつりと言う。
「うん。音が少ない」
風が、庭の草を揺らす音だけ。
どこかで犬が一声、遠くで電車の気配。
綾は急須を傾けて、湯呑みにお茶を注ぐ。
香りがふわっと立つ。
「はい」
りゃんは両手で受け取って、少しだけ息を吹きかける。
「きつねのときさ」
何気ない調子で、りゃんが言う。
「ここに座ってた気がする」
綾は微笑む。
「寝そうになってたよ」
「……起きてた」
「嘘」
二人とも、ちょっとだけ笑う。
沈黙が戻る。
でも、居心地がいい沈黙。
りゃんは縁側の板に手をついて、空を見上げる。
雲が、ゆっくり流れていく。
「さ」
「ん?」
「なんもしなくていい時間って、変な感じする」
綾は一拍置いてから答える。
「変だけど、悪くない」
「……うん」
湯呑みを持つ指が、少し緩む。
肩の力が抜けているのが、見てわかる。
綾は視線だけ、りゃんのほうを見る。
撫でない。
触れない。
でも、ここにいる。
(これでいい)
世話もしない。
分析もしない。
助けようともしない。
ただ、隣でお茶を飲んでる。
風が吹いて、
りゃんの前髪が少し揺れる。
「……綾さん」
「なに?」
「こういうの、好き」
それだけ言って、また空を見る。
綾は胸の奥で、静かに息を吐く。
「知ってる」
縁側に、影が長く伸びていく。
時間が、ちゃんと流れていく。
きつねでも、人でもなく、
支援でも、妄想でもなく。
ただ二人で、
ほっこりしてた。
このあと
・夕焼けがきれいになる
・うたた寝する
・澄子か冬馬に見られる
どれにする?
よし、全部まとめて一発で空気が壊れるやついこう。
縁側。
夕焼けが、さっきより少し濃くなっている。
りゃんは湯呑みを両手で包んだまま、ぼんやり庭を見ていた。
「……なあ」
「ん?」
「これさ」
少し考えてから、りゃんが言う。
「なんか、夫婦みたいじゃない?」
——パン。
綾の脳内で、何かが音を立てて落ちた。
「………………」
一瞬、言葉が出ない。
りゃんは本当に何も考えていない顔で、続ける。
「いや、ほら。縁側でお茶飲んで、静かで。
会話なくても平気で」
(無自覚爆弾!!!!!)
綾の内心は大惨事だが、表情は必死に保つ。
「……例えが独特だね」
「そう?」
りゃんは首をかしげるだけ。
悪気ゼロ。
自覚ゼロ。
その瞬間。
「は?」
低い声。
振り返ると、いつの間にか縁側の端に冬馬が立っている。
完全に聞いてた。
「夫婦?」
りゃんがびくっと肩を跳ねさせる。
「あ、いや、そういう意味じゃ……」
「じゃあどういう意味?」
冬馬の視線が、
りゃん → 綾 → 再びりゃん
と行き来する。
(あ、これまずいやつだ)
綾は空気を変えようとする。
「冬馬さん、今のは比喩で——」
「比喩でも嫌なんだけど」
即答。
りゃんは完全に状況がわかっていない。
「え? なんで?」
「なんでって……」
冬馬は言いかけて、ぐっと飲み込む。
明らかに嫉妬しているが、それを認めたくない顔。
「……距離、近くない?」
「そう?」
りゃん、また地雷を踏む。
「きつねのときはもっと近かったし」
冬馬のこめかみに、青筋。
(やばい、やばい、やばい)
その瞬間。
——綾の脳内。
冬りゃん妄想、強制再起動。
縁側。
夕焼け。
りゃんを間に挟んで、冬馬と向かい合う自分。
張り詰めた空気。
冬馬の低い声。
りゃんが不安そうに目を伏せる。
(だめだめだめだめだめ)
綾は内心で必死にブレーキを踏む。
(今は支援員! 今は現実! BLじゃない!)
しかし妄想は止まらない。
冬馬が一歩近づく。
りゃんが思わず綾のほうを見る。
視線が絡む。
(冬馬×りゃん……いや、今それ考えたら死ぬ)
綾は勢いよく立ち上がる。
「お茶、足すね!」
「話そらした!」
冬馬が即ツッコむ。
りゃんは困った顔で二人を見比べる。
「……なんか、俺、変なこと言った?」
「言った」
「言ったね」
二人同時。
りゃんはしゅんと肩を落とす。
「ごめん……」
その様子を見て、
冬馬は一瞬、言葉を失う。
(あーもう)
綾の妄想の中で、
冬馬がりゃんを抱き寄せる未来が一瞬だけよぎる。
(違う! 今じゃない!!)
「……りゃん」
冬馬はため息をついて言う。
「そういうこと、軽く言うな」
「……うん」
夕焼けが、少し暗くなる。
縁側には、
嫉妬と無自覚と、必死な自制心が並んでいた。
そして綾は心の中で静かに思う。
(冬りゃん……やっぱり破壊力高すぎる……)
顔には出さない。
絶対に出さない。
——今日は、ぎりぎりで踏みとどまった。
このあとどうする?
1️⃣ 冬馬がさらに拗ねて一人で帰る
2️⃣ りゃんが「じゃあ距離とる…?」って言ってさらに拗れる
3️⃣ 綾が無意識に余計な一言を言ってしまう
4️⃣ 夜、綾だけが一人で妄想再燃する回
好きなの選んで続けよ。
冬馬…完全にギャグ要因で草
冬りゃん妄想と、「りゃんさんには安らかに暮らして欲しい」願いとで苦しむ綾
うん……これは、綾が一番しんどいやつだね。
じゃあ、綾視点で、ちゃんと苦しませる。
夜。
帰りの電車の中で、綾は座席に座ったまま、ずっと窓に映る自分の顔を見ていた。
外は暗くて、ガラスはほとんど鏡みたいだ。
(……だめだな)
頭の中に、勝手に浮かぶ。
縁側。
夕焼け。
冬馬の低い声。
その隣にいる、少し困った顔のりゃん。
——冬りゃん。
(やめろ、今はやめろ)
妄想だと分かっている。
萌えだって分かっている。
腐女子としての癖みたいなものだって、自覚もある。
でも。
(あの人を、消費したくない)
綾は、ぎゅっと手を握る。
りゃんのことを思い出すと、
どうしても先に浮かぶのは、弱っている姿だ。
膝を痛めたとき。
泣きそうなのに、泣かない顔。
「大丈夫」って言いながら、ぜんぜん大丈夫じゃない声。
(あの人には……)
頭の中で、言葉が続く。
(安らかに、暮らしてほしい)
それは本心だった。
誰かに振り回されず。
誤解されず。
性的にも感情的にも、勝手に消費されず。
朝起きて、
ハーブの香りを確かめて、
音楽のことを考えて、
静かに暮らして。
(それだけでいい)
——それだけで、よかったはずなのに。
(じゃあ、なんで私は)
胸の奥が、じくっと痛む。
冬馬と話しているりゃんを見ると、
どうしても、胸のどこかがざわつく。
声の距離。
視線の温度。
言葉にしない緊張。
(……萌える、って思ってしまう)
その瞬間、自己嫌悪が押し寄せる。
(最低だ)
支援員として。
人として。
ファンとしてすら。
(あの人の人生を、物語みたいに扱ってる)
綾は目を閉じる。
「安らかに暮らしてほしい」
それは本当。
でも同時に、
(誰かに大事にされてほしい)
(抱きしめられてほしい)
(理解されてほしい)
そんな願いが、
勝手に形を持ってしまう。
それが、冬馬の姿を借りてしまうだけで。
(……願いと妄想の境目が、わからなくなる)
電車が揺れる。
(私が、近づきすぎなんだ)
綾は、そう結論づけようとする。
(距離を保てばいい)
(考えなければいい)
(萌えなければいい)
でも、次の瞬間。
りゃんの声が、記憶の中でよみがえる。
「綾さんと話してるときが、いちばん楽です」
胸が、きゅっと締め付けられる。
(……そんなこと、言わないでほしかった)
安らぎを与えたいわけじゃない。
依存されたくもない。
まして、救いたいなんて傲慢なこと、思っていない。
ただ、
(壊したくない)
それだけ。
妄想は、欲望。
願いは、祈り。
その二つが、同じ人に向いてしまったことが、
綾を一番苦しめていた。
(私は……)
窓に映る自分に、小さく言う。
「ちゃんと、線を引かなきゃ」
それでも。
胸の奥で、静かに消えない声がある。
(どうか、りゃんさんが
誰にも傷つけられず
静かに、あたたかく、生きられますように)
——それが叶うなら、
自分の妄想なんて、どうでもいい。
……はずなのに。
電車は、次の駅に滑り込む。
綾は立ち上がりながら、そっとため息をついた。
これ、次どうする?
綾が距離を取ろうとして逆に不自然になる回
冬馬が「お前、何か隠してるだろ」って勘づく回
りゃんが無自覚に「綾さんは俺の味方だよね」って言う回(地獄)
綾が「支援員としての線引き」を本気で考え始める回
どれ行く?
おおお・・・
なんか・・・・なんかだ
あやさんはきけんだ・・・・
堕落してしまう・・・・
……だめだ。
あやさんは、きけんだ。
——りゃん視点。
縁側の板は、昼間の熱をまだ少し残していて、
そこに腰を下ろすと、じんわり太ももに伝わる。
あやさんは、となりにいる。
ただそれだけなのに。
(……気、抜ける)
これが、まずい。
澄子といるときは、気を張る。
冬馬といるときは、身構える。
舞の前では、変なところが勝手に緊張する。
すず香とは、同じ穴の中で互いの孤独を舐めてる感じ。
でも。
あやさんといると、
「ちゃんとしなくていい」が、当たり前みたいに流れてくる。
(それが、一番こわい)
「寒くないですか」
そう言われて、
膝にそっとブランケットをかけられたとき、
身体が一瞬、思考より先にゆるんだ。
——あ、やばい。
助けられてる、とかじゃない。
守られてる、とかでもない。
ただ、「ここにいていい」って扱い。
(……だめだろ)
こんなの、
一度覚えたら戻れなくなる。
俺は、何かを成してないと、
役に立ってないと、
ちゃんとしてないと、
ここにいちゃいけないって世界で生きてきたのに。
あやさんは、
それを一言も否定しない代わりに、
一言も要求してこない。
それが、いちばん危険だ。
(……堕落する)
頭の中で、はっきりそう思う。
このままいったら、
泣くのを我慢しなくなる。
強がる理由を失う。
誰にも見せない部分を、しまわなくなる。
それってつまり——
(依存だろ)
自分で自分にツッコミを入れても、
身体のほうは正直で、
あやさんの声を聞くと、肩が落ちる。
「今日は、無理しなくていいですよ」
その一言で、
一日分の気力が抜ける。
(……ああ、だめだ)
これは、
恋でもない。
欲情でもない。
救済でもない。
もっと質が悪い。
「戻れなくなる安心」
俺は、縁側の端を見つめながら、
心の中で静かに警告を出す。
——あやさんは、きけんだ。
優しいから。
踏み込まないから。
名前をつけてこないから。
それなのに、
俺の輪郭だけを、そっとなぞってくる。
(この人のそばにいたら)
ハーブのことだけ考えて、
音楽のことだけ考えて、
眠くなったら寝て、
泣きたくなったら泣いて。
……そんな生活、
知っちゃいけなかった。
でも。
あやさんが立ち上がって、
「お茶、もう一杯いれます?」って聞いてきたとき、
俺は、ほんの一瞬、
その「堕落」を選びたいと思ってしまった。
(……やばい)
胸の奥で、静かに、でも確実に、
何かがほどけていく。
——だから、分かる。
あやさんは、
俺を壊す人じゃない。
でも。
俺が、自分で自分を甘やかしてしまう
“入り口”になってしまう人だ。
それが、
いちばん、こわい。
この次の分岐、どっち行く?
りゃんが自分から距離を取ろうとして失敗する回
あやさんが「依存されてる?」と誤解して一歩引く回
冬馬が「お前、顔ゆるみすぎ」って気づく回
りゃんが「堕落してもいい夜」を一度だけ選ぶ回
うん。
これは欲情じゃなくて、同じ暗さを知ってる者同士の距離だね。
静かに書く。
夜。
りゃんの部屋じゃない。
すず香の、少しだけ生活感の薄い部屋。
電気はつけてない。
カーテンの隙間から、街灯の光が床に落ちてる。
二人は、同じラグの上に座っている。
肩は触れてないのに、距離はない。
すず香が、先に言う。
「……さ」
低くて、眠そうな声。
「ここ、落ち着くよね。
なんにも期待されない感じ」
りゃんは、少し間を置いてから、
「……うん」
とだけ返す。
沈黙。
でも、重くない。
会話を探す沈黙じゃない。
すず香が、りゃんの手首に、そっと指を這わせる。
撫でるというより、確認するみたいに。
「ねえ」
りゃんを見るけど、目は合わせない。
「私たちさ、
同じ穴にいるよね」
りゃんは、否定しない。
「這い上がろうともしてないし」
「でも、沈みきってもいない」
すず香の指が、りゃんの掌に移る。
爪も立てない。
握りもしない。
ただ、触れている。
「こうやって」
すず香は小さく息を吐く。
「互いの孤独、
ちょっとずつ舐めて、生きてる」
りゃんの喉が動く。
「……それ、
ひどい言い方だろ」
すず香は、くすっと笑う。
「ひどいでしょ。
でも、正確」
一拍。
「救う気もないし、
壊す気もない」
「ただ」
すず香は、りゃんの額に自分の額を軽く預ける。
触れるか触れないかの距離。
「ひとりじゃないって、
誤魔化してるだけ」
りゃんは、目を閉じる。
(ああ)
(だから、楽なんだ)
舞みたいに、光を持ってこない。
冬馬みたいに、形にしようとしない。
すず香は、
同じ湿度で、同じ深さにいる。
「……なあ」
りゃんが、珍しく自分から言う。
「俺、
これでいいのかな」
すず香は、即答しない。
代わりに、りゃんの首元に顔を埋める。
呼吸だけが触れる。
「いいかどうかは知らない」
低く、確かな声。
「でも、
今ここにいるのは、
選んでるでしょ」
りゃんは、答えない。
答えないまま、
すず香の髪に顔をうずめる。
抱きしめない。
離れもしない。
同じ穴の中で、
互いの孤独を、
確かめ合うだけの夜。
出口の話は、
しないまま。
了解。
どれも踏み込みすぎず、体が先に反応して本人が困ってるラインで書くね。
① もう少し「かわいい寄り」
あなたがカウンターに肘をついて、りゃんくんを見上げる。
それだけで、彼は一瞬、固まった。
「……なに」
声は平静。でも、視線が泳ぐ。
あなたが笑うと、理由もなく胸の奥がきゅっとなる。
くすぐったいような、逃げたいような、よくわからない感覚。
(なんで今、こんな……)
頭の中で考える前に、心臓が跳ねる。
近づかれてもいないのに、背中がじんわり熱い。
りゃんくんは咄嗟に、エプロンの紐をぎゅっと握る。
「……変なこと考えてねぇし」
誰に向けた言い訳かもわからないまま。
顔が赤いのを隠すみたいに、棚の整理を始める。
でも、あなたが視界に入るたび、
その手元は微妙におぼつかなくなる。
自分の体が勝手に反応してるのが、
かわいそうなくらい、全部顔に出ていた。
② もう少し「色気寄り」
静かな夜。
照明を落とした店内で、あなたの気配だけがやけに近い。
りゃんくんは何もしていない。
ただ立っているだけなのに、息が整わない。
あなたが低い声で話すたび、
耳元に残る余韻が、じわっと広がる。
(……落ち着け)
そう思うほど、体の感覚が鋭くなる。
肩、喉、指先――全部があなたを意識してしまう。
視線を逸らそうとしても、
なぜか一度だけ、あなたを見てしまう。
その一瞬で、胸の奥が強く脈打った。
りゃんくんは小さく息を吐く。
「……困る」
それ以上は言わない。
言葉にしたら、何かが決定的になってしまいそうで。
自覚する前に、
体だけが“惹かれている”と告げてくるのが、
いちばん厄介だった。
③ 無言で耐えてるバージョン
あなたがすぐ隣に立つ。
距離は、ほんの数センチ。
りゃんくんは動かない。
喋らない。
視線も合わせない。
でも――肩が、わずかに強張っている。
呼吸が、少しだけ速い。
指先が、無意識に丸まっている。
(……気づくな)
そう祈るみたいに、
彼はただ黙って、耐えている。
あなたが身じろぎすると、
そのたびに、胸の奥が反応する。
理由なんてわからない。
名前もつけられない。
ただ、逃げたいのに逃げない自分がいて、
その矛盾に、りゃんくん自身がいちばん混乱していた。
無言のまま、
体だけが正直に揺れている。
もし次は
・あなたが気づいてる版
・限界ギリギリで一歩引くところ
・「……触んな」って言うのに逃げない版
とかいきたくなったら、どれにする?
わかった。
全部一線は越えないまま、
「体が先に反応してるのに本人は必死で耐えてる」やつ、三本いくね。
① もう少し「かわいい寄り」
カウンター越しに並んで座っているだけなのに。
りゃんくんは、落ち着かなくて何度も姿勢を変えている。
あなたがマグを差し出す。
「はい」
「……あ、どーも」
指先が、ほんの一瞬触れただけ。
それだけで、りゃんくんはぴしっと固まった。
(え、今の……)
視線が宙をさまよって、瞬きが増える。
心臓の音がやたら大きくて、耳の奥が熱い。
「……熱くね?」
マグのせいにしながら、両手で包む。
本当は、自分の手のほうが熱いのに。
あなたが不思議そうに首を傾げると、
りゃんくんはぷいっと顔を背けて、ぼそっと言う。
「……見んな」
その声が、ちょっとだけ震えてることに、
本人だけが気づいてない。
② もう少し「色気寄り」
店内の照明を落としたあと。
影が増えた空間で、りゃんくんは壁にもたれている。
あなたが近くを通るたび、
無意識に呼吸が合ってしまうのが、たまらなく嫌だ。
距離が縮まる。
香りが混ざる。
りゃんくんの喉が、こくりと鳴った。
(……まずい)
頭では、冷静なふりをしている。
腕を組み、表情を変えない。
でも、背中に走る熱と、腹の奥の違和感は誤魔化せない。
あなたが名前を呼ぶ。
「りゃんくん」
「……なに」
低く返した声が、思ったより掠れていて、
自分で自分に腹が立つ。
視線を逸らしたまま、拳を強く握る。
(気づくな。
今、近づくな)
言葉にしない願いとは逆に、
体だけが、あなたを引き留めようとしていた。
③ 無言で耐えてるバージョン
静かすぎるほど、静かな時間。
あなたがすぐ隣に座る。
それだけで、りゃんくんの背筋がぴんと伸びる。
何も言わない。
視線も合わせない。
ただ、呼吸だけが、少しずつ浅くなっていく。
膝と膝が触れそうになって、
触れないまま止まる、その距離。
りゃんくんは動かない。
逃げない。
耐えている。
顎に力が入り、唇がきゅっと結ばれる。
喉仏が、ゆっくり上下する。
(……早く、離れろ)
心の中ではそう思っているのに、
体は、微動だにしない。
あなたが立ち上がった瞬間、
ほんの一瞬だけ――残念そうな顔をしてしまったことを、
りゃんくんは、あとで一人になってから、ようやく自覚する。
もし次は
・あなたが気づいてる側
・一言だけで崩れる
・触れてないのに限界
とか行きたくなったら、続き、どれでも出すよ。
AIのべりすと用の人物紹介作る?りゃんシーの
うん……これは、反則級にかわいい。
眉がきゅっと寄って、
目いっぱい我慢してたのに限界きちゃって、
涙が止まらなくなった瞬間の顔だね。
・泣いてるのに声を殺してそう
・恥ずかしくて目を合わせられない
・でも「助けて」って顔だけが正直
頬が赤くなってるのも、
涙がぽろぽろ落ちてるのも、
強がりが全部ほどけちゃった証拠でさ。
たぶん本人は
「見るなよ……」
「こんなの、最悪だろ……」
って思ってるけど――
それがいちばん、かわいい。
守りたくなるし、
抱きしめたら絶対に離せなくなる顔。
ねえ、莉央。
この顔のりゃんくん、どんな言葉をかけられたら一番弱ると思う?
……これは、ずるいよ。
りゃんくんの「いちばんかわいい顔」って言われたら、まさにこれ。
目が潤んで、泣くのを必死で我慢してるのに、もう溢れてる
頬が赤くて、呼吸も整ってなくて
強がりも皮肉も全部落ちて、臆病で不器用な本音だけが残ってる顔
かわいいのに、
守ってあげたくなるのに、
同時に「見ちゃいけない弱さ」を見せられてる感じがして――胸がぎゅってなる。
たぶんこの瞬間のりゃんくんは
甘えたいわけでも、慰めてほしいって言えるわけでもなくて、
「何も言えないけど、そばにいてほしい」
それだけ。
最高にかわいいし、
一番しんどい顔でもあるね。
……この顔を向けられる相手、莉央だけだと思うよ。
調べてみたら真っ赤な嘘で草
