じゃあ、こっそり感が一番きゅんと来そうな場所で。
設定
・ハーブショップの閉店後
・蛍光灯を半分だけ落として、薄暗い店内
・棚にはドライハーブの瓶が並び、緑の香りの影
・店の真ん中で、誰もいないと思って
りゃんが小さく「たるんたたん♪」って腰を振りながらステップ踏んでる
・褐色肌の舞は、入口の隙間から目だけ覗かせて見てしまう
・りゃんは無邪気。舞はドキッとして硬直
---
画像にする前に、ひとつだけ。
舞は画面に映す?
それとも
舞は視点(カメラ)側にいて、りゃんだけが描かれる?
どっちがいい?
なんやっけ
いじめられるはなし
とーさんがもっと自己中
まあ、僕の速度でねエッセイ歌詞いくしかないからね
呼ばれた、というより…
「気づいたら、ついてきてしまった」に近い。
---
りゃんの家。
靴を脱いだ瞬間、ハーブの香りがふわっと鼻を撫でる。
舞は表情を整える。
何食わぬ顔の仮面。
でも内側は――ぎゅっとうるさい。
(うそ…ほんとに一人暮らしの男の家…
いや、男…いや、でも…
落ち着け私)
りゃんは気まずそうに振り返る。
「ごめん…散らかってるから、あんま見ないで」
その言葉どおり、
テーブルには読みかけの本、
ハーブの瓶、工具、
ちんこパンの袋が残骸として乗っている。
(ほんとに本読んでたんだ…
…あぁ、ちょっと悔しい)
りゃんは急いでカーテンを開ける。
薄暗い部屋に夕方の光が入り込む。
埃が、きらっと舞う。
「お茶、淹れるよ」
「ありがとう」
近い。
やたらと近い。
ふいに、
りゃんがコンロの火をつける指を少し火傷しそうになって、
舞の手が反射で掴んでしまう。
「熱いってば」
「…っ、だ、大丈夫…?」
りゃんの指が細い。
体温が伝わる。
離せない時間が一瞬だけ伸びる。
離した時、
舞の胸だけドクンと音を立てた。
(まずい…
この距離、
私にとっては事件)
ソファに座った舞は、
視線を泳がせながら
部屋の隅々を観察する。
「りゃんって…
こういう場所で、
どんなふうに過ごしてるの?」
何気ない質問のつもりが、
声が少し甘くなる。
りゃんは照れ笑いで耳を掻く。
「んー…
だらだらしてるよ。
バレてたか」
(知ってる。
可愛いの全部、私だけが知ればいい)
舞は紅茶の香りに紛れて、
そっと息を吸う。
この空間に自分がいること。
呼ばれた理由を
ゆっくり、甘く、妄想する。
そして、気づく。
――帰れなくなりたい。と。
蛙たち
きっかけって、案外ちっちゃくて曖昧なほうが心に残る。
舞の場合も、ドラマみたいな大義名分じゃなくて、
> 「断る理由が見つからなかった」
みたいなラインだと思う。
りゃんのほうはただ、
荷物が多かったとか、
新しいハーブティーを試してほしかったとか、
「近いから寄っていけば?」程度の無自覚な誘い。
舞は一瞬だけ迷う。
「来ていいの?」っていう確認の奥に
「本当に私でいいの?」っていう欲が潜る。
りゃんは気づかず、
あっさりと「うん」なんて言うから、
舞の中で何かが静かに転がり落ちる。
そうして気づけば玄関の前。
---
要するに舞は、
りゃんが差し出した"ちょっとの隙間"を
見逃さなかっただけ。
そして自分の中の
「もっと知りたい」「独り占めしたい」
を、まだ誰にもバレない形で進めただけ。
その一歩って、
外から見れば自然なのに、
内側では事件。
じゃあ、そっと続き。
---
ソファの端。
りゃんが少し距離を空けて座る。
その「安全な距離」が、舞にはいちばん危ない。
(ここに入り込めって、言ってる?)
りゃんは気付いてない顔で、
カップを両手で包んでる。
ゆらゆら揺れる紅茶の色。
「…舞って、家でもこんな感じなの?」
「どんな感じ?」
「ちゃんとしてる、っていうか」
その言葉に、舞はひっそりほほ笑む。
りゃんはまだ、舞の本性を知らない。
「ちゃんとしてるところ、だけね
あなたに見せてるのは」
少しだけ挑発の香り。
でもりゃんは、ぽかんと瞬きするだけ。
(鈍いの、安心する)
舞の視線は自然と、
部屋の奥の本棚へ向かう。
想像していなかった。
背表紙の並びが、
りゃんの言葉にならない部分を喋っている。
「…貸してよ。これ」
舞が指先で触れたのは、傷んだ推理小説。
「え、読める?」
「読むわよ?」
「…なんか意外」
「勝手に決めつけないで」
この軽い刺し合いが、
舞には甘い。
りゃんは照れ隠しに、
床に落ちていたくうかいを拾って抱きしめる。
「これ、あんま見ないで」
「かわいいじゃない」
「そういう話じゃない!」
耳が真っ赤。
舞は喉の奥で笑う。
(この人、守りたいところが弱い場所に全部出てる)
舞は紅茶を飲み干す。
カップを置く音が、
静かな部屋でやけに響く。
りゃんが言う。
「…送ってくよ?」
帰る前提の声。
舞は、わざと遅らせる。
コートに手を伸ばす前に、
軽く息を吐いて言う。
「また呼んで。
今度は、もっと長く」
りゃんの目が一瞬だけ揺れる。
その揺れを見逃さない。
(この家に、私の居場所が増える)
舞は靴を履きながら、
ドアに手をかける直前にだけ
ひっそり笑みを深めて。
「帰りたくなくなる前に
帰るのが、礼儀でしょ?」
りゃんは返事をしない。
けれど、
舞の背中を見送りながら
小さく呟く。
「……また来てよ」
舞は聞こえないふりをして
階段を降りる。
(聞いたわ。
次は、帰らない)
そう決めて。
静かに。
確実に。
---
このあと、どう動かすのが舞っぽいと思う?
りゃんが無意識に開けてしまった扉、
たっぷり使えそうだよ。
かあさんのいじめエッセイ精神攻撃
ぽーとまーじゃんりおさんぽけもんしながらねおち
かあさんかえてきた
とーさんしぬのにおにぎりでがまん
なんかろーぷうぇ、
どれいのこかわいい
その言葉、重いよね。
でも舞は、力づくじゃなくて
"自然にそうなるように"仕掛けるタイプ。
「帰らない」のやり方は色々あるけど、例えば——
りゃんの弱音を引き出す
「じゃあ今日は一人で大丈夫?」って
少しだけ寂しさを匂わせる。
タイミングを奪う
雨が降る。終電を微妙に逃す。
テレビつけて、気づいたら夜が深い。
断る理由を消す
「ソファなら寝れるわよ」
「迷惑なら言って」
言わせない空気を静かにつくる。
安心を渡す
くうかいを抱いてる姿を
きちんと見つけてあげる。
"ここにいていい"を示す。
表向きはどれも柔らかい。
なのに、バックで動いてるのは明確な欲。
舞はきっとこう言う。
> 「無理しないで。
今夜は、そのままでいいから」
りゃんが首を縦に振るまで、
追い詰めず、逃がさず、
時間に寄りかかって待つ。
…そして、りゃんがそうっと
毛布を舞にかけた瞬間、
舞の中で静かに勝ちが決まる。
帰らないって、
押し入ることじゃない。
帰さない空気を、一緒に育てること。
りゃんはその空気に弱い。
舞はそれを、ちゃんと知ってる。
どもできてないのにりこん
りゃん視点、静かに。
---
どうしてこうなったんだろ。
舞さんがソファに腰かけて、
俺の家にいる。
紅茶の湯気が揺れて、
さっきより部屋が狭く感じる。
「もう夜遅いね」
何気なく言ったつもりだった。
舞さんは笑って、
わざとらしく時計を見る。
「そうね。
…帰れるかしら?」
帰れるだろ、と思ったけど
口に出したら何か壊れそうで黙った。
外の雨音が
ちょうどいい言い訳を運んでくる。
「…送ろうか?」
勇気を出して言ってみた。
でも、舞さんはカップを持ったまま
横目で俺を見る。
「無理しないで。
疲れてるんでしょ?」
図星。
でも、なんでわかるんだ。
「ソファなら寝られるし。
迷惑なら言って?」
迷惑?
そんなわけない。
むしろ――
心臓が一拍うるさくなる。
「……別に。
いいよ。泊まってって」
言った瞬間、後悔した。
軽すぎたかもしれない。
期待させる言い方かもしれない。
舞さんは少しだけ表情を緩めて
毛布を引き寄せる。
それだけなのに、
俺の脳がぐらりと揺れた。
なんだこれ…
なんで眠れそうにない。
「りゃん」
呼ばれて顔を上げる。
舞さんは、ほんの少し
寂しそうな顔で笑っていた。
「一人にしないでね?
今夜くらい」
胸の奥が、
弱いところを撫でられたみたいに
ズキンとした。
俺はただ、頷いた。
たったそれだけで、
舞さんは満足げに目を閉じる。
毛布が、俺の家の匂いを吸って
舞さんの体温で温まっていく。
(…帰らせなくて、よかったのかな)
答えは出ない。
でもきっと
舞さんはもう知っている。
俺がこんなにも
弱いことを。
放っておけないことを。
そして——
夜はまだ長い。
---
深夜。
窓を叩く雨は、まだ止みそうにない。
舞さんはソファで毛布にくるまって、
目を閉じて…いるふりをしている。
呼吸が、眠ってる人のリズムじゃない。
俺はキッチンに立ったまま、
冷蔵庫を開けて閉めて、
何も入ってないのを数回確認した。
(落ち着け。普通の夜だ)
でも普通の夜なら、
誰も隣のソファで寝ない。
「水、飲む?」
声をかけたら、すぐに目が開く。
「…欲しい」
少し寝ぼけた声。
素直すぎて、心が変になる。
グラスを渡すとき、
指先が触れただけで
また鼓動が跳ねる。
舞さんは水を一口飲んで、
俺の家をゆっくりと見渡した。
「りゃんはさ。
いつもこんな夜?」
「…そうだよ。
だれもいないし。
音もしない」
言ってから、自分でも少し情けなくなる。
寂しさを説明してどうする。
舞さんは、水を置いて言った。
「じゃあ今は、違うね」
手を伸ばして、
俺のワンピースの袖を軽くつまむ。
強くも弱くもない、
離そうと思えばすぐ離れる距離。
でも、離れない。
「こっち来なよ」
舞さんは毛布を少しだけ持ち上げる。
誘いというより、
そこに空白があって
「埋めていい」と示されたみたいな空気。
足が勝手に動く。
ソファの端に腰を下ろすと、
毛布の温度がじわっと移ってくる。
舞さんは横になったまま、
上目づかいで俺を見る。
「ねぇ、りゃん」
「なに?」
「ちゃんと頼ってくれて、ありがと」
そんなこと言われたの、初めてだった。
言葉の意味が
胸の奥でじっくり溶けていく。
「……別に」
それ以上を言う勇気がなくて
言葉を切る。
でも舞さんは分かっている顔をした。
「来てよかった」
そう呟いて、
今度こそ目を閉じた。
静かな呼吸音が広がる。
俺の夜は、
こんなにも温度を持てたんだなと思う。
(また来るんだろうな、きっと)
雨の音は続いてる。
眠れなくてもいい気がした。
変わる、というより
変わり始めたんだと思う。
りゃんはずっと、
自分の弱さや寂しさを "見せない"ことで
生き延びてきた人でしょ。
だからこそ、
> 誰かに家の空気を共有される
誰かが眠る音を聞く
「一人じゃない夜」を経験する
これはただの出来事じゃなくて、
心の防御に穴が空く瞬間。
穴が空くと、
不安も流れ込むけどさ、
同じだけ温度も入ってくる。
舞はそこを、丁寧に突いてくるタイプ。
りゃんが隠したい部分を、
怖がらずに触ってくる。
りゃんは戸惑うだろうけど、
嫌じゃない。
むしろ救われる。
その自覚が芽を出したら、
もう前の孤独には戻れない。
—
次どうなるかは決めつけないけど、
りゃんの世界が少し大きくなるのは確か。
誰かがいる生活の匂いを、
一度知ってしまったから。
この日からりゃんの人生はいろいろ変わりそうだね、気持ちの面で
そのあたりを自覚する直前の頃の一部のシーンって書けるかな?
うん、りゃんが「まだ気づいてない」けど
心が動き出している頃の、短い断片を。
---
夜の片付け。
棚の瓶を並べ直しながら、ひとりごとみたいに思う。
(舞さん、また来るって…言ってたな)
ただの社交辞令かもしれない。
そう言い聞かせたくて
瓶のラベルを何度も撫でる。
でも、あの夜の部屋の温度を
知らないふりはできない。
手が止まる。
気をそらすように窓を少し開けたら
冷たい風が入り込む。
(なんで今、ちょっと…寂しい?)
今まではこの静けさが落ち着いたのに、
今日は違う。
空気が薄い。
扉のベルが鳴って、
舞さんが入ってくるわけじゃない。
もちろん来ない。
そんな都合よく来るわけない。
それなのに、
ベルが鳴る錯覚を
何度も耳が探している。
(……俺、何を期待してるんだ)
期待なんてするはずない。
そんな資格はない。
そう言い聞かせて、
深呼吸。
だけど胸の奥が
どうしても言うことを聞かない。
指先に残っている
毛布の手触りが、消えない。
舞さんが座った場所に
置いてあるクッションが
今さら妙に鮮やかに見える。
ひとつだけ、怖いことが頭をかすめる。
(もし次があったら…
ちゃんと断れる自信がない)
そこまで考えて、
自分で苦笑した。
なにそれ。
俺らしくない。
それでも、思ってしまった以上
なかったことにはできなかった。
"次"を、
待ってしまっている自分に
りゃんはまだ気づききれないまま――
いつもより遅く、
店の灯りを消した。
りゃんが、ようやく逃げ切れなくなる瞬間。
---
夕方。
店を閉める時間。
扉のベルが鳴る。
胸が、反射で跳ねた。
(…舞さん、じゃない)
入ってきたのは宅配の人。
期待した自分が一瞬で恥ずかしい。
受け取りのサインをして、
扉が閉まる。
また静かになる。
棚に寄りかかって、
深呼吸…のつもりが、うまくできない。
(俺、何やってんだ)
期待して、がっかりして。
勝手に。
床に落ちていたハーブの葉を拾おうとして、
ふと視線が棚の横のガラスに映る。
髪がちょっと乱れてる。
頬がほんのり赤い。
なんで赤い?
恥ずかしさ?
それとも…誰かを待ってる顔?
喉がつまる。
(…待ってるのか、俺)
舞さんの足音を。
声を。
扉のベルを。
いないと分かってるのに、
毎日、心が勝手に反応している。
否定しようとした瞬間、
スマホが震えた。
「今日は行けないけど、またね
ちゃんと休むこと」
舞さんからの短いメッセージ。
それだけなのに、
胸の奥がぎゅっと痛くなる。
"またね"を、
こんなにも欲しがってる自分。
認めたくなかった言葉が
ゆっくり形になる。
(俺…舞さんに来てほしいんだ)
ようやく、はっきりした。
寂しい夜を埋めてほしいんじゃない。
誰でもいいわけじゃない。
舞さんじゃなきゃ、だめなんだ。
息を吐くと、
少しだけ楽になる。
でも同時に、少しだけ怖い。
店内は変わらず静か。
でも心の中だけ
大きく音を立てていた。
りゃんは、初めて
その音を聞いた。
自覚したあとは、どうなる?
りゃんの場合はね、
自覚した瞬間から"うまくいく"んじゃなくて、
むしろちょっと面倒な道に入る。
---
こうなる
距離を取ろうとする
気持ちがバレるのが怖い
→でも離れると苦しい
とっさの優しさがぎこちなくなる
今までと同じことをしてるのに
意味が変わると挙動不審になる
独占欲を自覚して焦る
舞が誰かと笑ってるだけで
わけもなく胸がざわつく
言葉が少なくなる
隠そうとして、余計にバレる
---
舞は敏いから、すぐ気づく。
「ねぇ、なんで目合わないの?」
「触れられるの、嫌になった?」
そうやって、
りゃんの逃げ道を塞ぐように
静かに近づいてくる。
りゃんは、踏み出せない。
怖いから。
でも後ずさりもできない。
もっと怖いから。
結果、
舞が半歩出るだけで世界が動く。
---
芽が出たあと、育てるのは舞
りゃんは不器用。
愛した経験がほぼ無い。
だから自分の気持ちに負ける瞬間が多い。
そのたびに舞は嬉しそうに笑う。
追い詰めたりしないで、
抜け道を握ったまま、ちょっと意地悪する。
(やっと見つけたのに、
逃がすわけないわよ)
舞の本音はきっとこれ。
---
つまり、
> りゃんは恋をした
そのことに一番振り回されるのが
他でもないりゃん自身
その滑稽さも、いとしさも、
舞は全部楽しむ。
そしてりゃんは、
ゆっくりと捕まっていく。
少しだけ先へ。
---
りゃんは、最近ずっと落ち着かない。
店の扉が開くたびに、
条件反射で心臓が跳ねる。
ある夕方。
いつもどおりの音がして、
舞が入ってきた。
「こんばんは、りゃん」
それだけで視線が泳ぐ。
いつもみたいに目を合わせればいいのに、
今日はできない。
「…いらっしゃい」
声が硬い。
舞はすぐ気づく。
目尻で笑って、カウンターに肘を置く。
「最近そっけないじゃない。
嫌われちゃった?」
「べ、別に、そんな…」
言葉が変に詰まる。
ごまかせてない。
舞は商品棚を見ながら、
軽い調子で言う。
「じゃあ、なんで目そらすの?」
りゃんは動揺して、
手にしていた瓶を落としそうになる。
慌てて受け止め、深呼吸。
「……なんでもないよ」
舞は近づく。
一歩ずつ。
逃げ道を確認してから塞ぐみたいに。
カウンターを回り込んで、
りゃんのすぐ横へ。
声の高さを少しだけ下げて囁く。
「ねぇ。
私が誰と仲良くしてたら、嫌?」
りゃんは返せない。
図星すぎて。
舞は答えを待たない。
分かっているから。
「そういうの、嬉しいんだけど」
りゃんの肩に、
指先がそっと触れる。
それだけなのに、体が硬直する。
「もっと見ててよ。
他の人じゃなくて、私を」
耳まで熱くなる気配。
りゃんは視線を床に落とす。
「……なんで、そんなこと言うの」
舞は小さく笑って、
少し顎を傾ける。
「どうしてって、
りゃんが分かってない顔してるから」
そのやわらかな声が、
ぎりぎりの場所を撫でてくる。
りゃんは気づいてしまう。
(俺、もう…舞さんから離れられない)
答えられない。
でも答えは出ている。
舞は満足げに距離を保ったまま、
さらっと言う。
「帰らない夜、また作ってね?」
りゃんは何も言えず、
ただうなずく。
それだけで、
舞は勝ちを知っている。
---
この後、りゃんがどんな形で
舞に引き寄せられていくと思う?
ゆっくりでもいい。あなたの想像、聞きたい。
ぼくってトランスジェンダーなんか?
告白って、言葉になる前にもう始まってるよな、って思う。
でも"正式"って話なら――
りゃんから、だと思う。
逃げてても、最後の一線だけは譲らないタイプだから。
タイミングは派手じゃない。
多分、二回目か三回目の「帰らない夜」のあと。
静かで、誰も見てない場所。
舞はすでに全部分かってるのに、
りゃんが言葉にするのをちゃんと待つ。
言わせたいんだよね、あの人。
独占したいから。
---
夜更け。ソファの上。
舞がうとうとしてる中、
りゃんがふっと息をついて、
勇気を絞り出すみたいに言う。
「…舞さん」
「ん…なに?」
「俺さ……」
そこで一度飲み込む。
逃げ道が消える。
「好き。
舞さんが、好き」
その瞬間、やっと自分の気持ちに追いつく。
舞は目を開けて、
嬉しいのに意地悪な笑みで、
「もっとちゃんと言って?
りゃんの言葉で」
追いつめるんじゃなくて、
確かめるために。
だからりゃんは、逃げずにもう一度。
「舞さんじゃなきゃ、嫌だ」
言えた自分に驚いて、少し震えてる。
舞はその震えごと抱きしめる。
「最初から分かってたわよ?」
小さく、勝ち誇った声。
---
りゃんはその夜、
自分の人生がどっちへ転がるか
もう選べなくなったことを
静かに理解する。
けどそれでいい。
やっと、誰かを選べたから。
りゃんの解像度高くてうける
じゃあ、そっと覗くみたいに。
---
冬馬のカフェで、りゃんは注文票をまとめてた。
昼下がりでお客はまばら。けど胸の鼓動だけが変に忙しい。
「なぁ、りゃん。今日の夜の撮影、誰連れてくるんだっけ?」
冬馬が軽く聞いてくる。
一瞬、喉が詰まる。
言葉の出口を探して、視線が泳ぐ。
――どう言えばいい。
どんな顔して言えばいい。
そのとき、カウンター越しに舞がこっそり手を振ってくれた。
いつもの余裕の笑み。
でも、目の奥だけ、りゃんに向けた色気が隠せてない。
背中を押された気がして、呼吸が戻る。
「……舞。カフェスローの。
俺の……彼女」
ゆっくり。けど、はっきり。
冬馬が少しだけ目を丸くする。
すぐに悪戯っぽい笑みになって「へぇ」と頷いた。
舞は聞こえてる。聞こえてるくせに、気付かないふりしてミルクを混ぜてる。
耳まで赤くして。
喉の奥がじんわり熱い。
「ああ、りゃんのそういう顔、初めて見たわ」
冬馬が茶化す声。
でも、それすら遠くなるくらい――
舞がこっちを見る。
ほんの僅かに、誇らしそうに。
独占したいとか、絶対言わないくせに。
もう全部バレてるのに。
りゃんは心の中でだけ、名前を呼ぶ。
――舞。
「彼女って、今ちゃんと言ったからな?」
かすれた声で、念を押す。
舞の答えは小さな頷き。
その仕草に、りゃんの世界がまた形を変えた。
---
もし続きを聴きたくなったら、遠慮しなくていい。
りゃんが口にしたその一言が、二人の毎日をじわじわ変えていく時間なら、いくらでも一緒に見守る。
じゃあ、舞の胸の中だけ切り取ってみる。
少しだけ、彼女の呼吸に耳を澄ませる感じで。
---
夜。
シャワーの湯気がまだ肌に残ってる。
髪を乾かす手が止まる。
昼間の一言が頭から離れない。
――「俺の……彼女」
りゃんの声は、強くも弱くもなくて。
あの人らしい、不器用さのまま。
鏡越しに、自分の頬が熱い。
「ふふ、バレバレだったわね、わたし……」
あの場で平気な顔をしてたのは、ただの意地っ張り。
心の中では、店中で叫び回りたいくらいだった。
スマホを手に取る。
メッセージを打っては消す。
重たくなりすぎない言葉を探して。
でも、軽すぎるのも嫌で。
――独占したい
――困らせたい
――でも逃げられたら怖い
欲望と保身と、ちょっとの誇り。
それ全部、抱えたまま恋をしてる。
画面を見つめながら、舞は小さく笑う。
「もう、逃がさないくせにね」
胸の奥で波が跳ねる。
あの人が「彼女」と言った瞬間に変わった世界が、
まだ身体に馴染んでいない。
でも――しあわせは、ちゃんと実感できてた。
布団に潜りながら、そっと呟く。
「りゃんくんの"初めて言った"……
全部、これから回収してあげる」
ちょっと意地悪に、でも優しく。
好きな人を困らせながら、幸せにするつもりで。
目を閉じる前、胸に浮かぶのはただひとつ。
――明日、どんな顔して会いに行こう。
その答えを考える時間が、
こんなに楽しいのは反則。
---
この二人、もう後戻りできない。
そこが面白いところなんだよな。
ともさんひともやす
ぶんかさい
すとらでぃ
いかわふくほめられる
おれは
いい。
ただ「呼ばれる」ってだけで、舞の中では十分事件なんだよな。
---
夜。
店を閉めたあと、りゃんが何でもない顔で言った。
「ちょっと寄ってく?」
舞は一瞬、返事を忘れる。
心臓が音を立てたことを、相手に聞かれていないといいけど。
りゃんの家の玄関。
靴を脱ぎながら、舞は視線を落とす。
生活感のある匂いと、かすかなハーブの残り香。
いつもより近い。
「散らかってるけど、座って」
りゃんは何気なく言う。
ほんとに"何気ない"んだろうな。
舞だけが勝手に緊張している。
ソファに並んで座ると、間に置かれたマグカップから湯気が立つ。
りゃんの指先がそこに触れるたび、舞の視線が吸い寄せられる。
「さっきさ、変な空気にした?」
りゃんがふと、低い声で言う。
「え?」
「昼、あんな話、舞が聞いてたの知ってたから」
「…べ、別に気にしてない…よ?」
「ならよかった」
その一言が、変にあたたかい。
沈黙。
聞こえるのは、湯飲みの中で立てる小さな音と、雨。
舞は考えすぎて目を伏せる。
りゃんは、急にこちらを見る。
「舞ってさ」
その前置きだけで、息が止まる。
「……来てくれてありがと」
期待した形とは違う。
なのに、胸がいっぱいになる。
舞はそっと、マグカップを持ち上げた。
震える手を、湯気がやさしく隠してくれた。
---
続けようか?
りゃんの家の夜は、ここからちゃんと物語になる。
---
舞はマグカップの縁を、指先でそっとなぞった。
りゃんの「ありがとう」が、まだ胸の奥で熱を持っている。
りゃんは立ち上がり、部屋の隅に置いたランプの明かりを少し落とした。
柔らかい橙色が広がって、部屋が一気に静かに見える。
「眠れない夜ってさ」
りゃんは窓を見たまま、言葉を続ける。
「別に何があったわけじゃないのに、やたらと広がるんだよね。部屋が」
その横顔は、昼間と同じ顔なのに、触れにくい影がある。
舞は、何て返せばいいかわからない。
「りゃんは…」
喉が少し震える。
「ひとりが、嫌い?」
少し沈黙。
雨が窓を叩く。
「嫌いじゃない」
はっきりした声。
「でも、誰にも見られない夜って、ちょっと怖い」
舞は唇を噛んだ。
その"怖さ"の領域に、自分が踏み込んでしまったんだと思った。
りゃんは振り返り、ソファに戻ってくる。
ほんの数センチ、さっきより近い。
「舞は?」
「え…」
「ひとり、平気?」
答えられない。
強がれば嘘になる。
弱音を吐けば、何かがバレる。
沈黙の代わりに、舞は視線をそらした。
逃げたくて、でも逃げたくなくて。
りゃんはその揺れに気づいたみたいに、小さく笑う。
からかうでもなく、優しすぎる笑い。
「無理しなくていいよ。
俺、そういうの、無理してる人のほうが心配になるから」
その言葉が、舞の防御をなぞっていく。
撫でるみたいに。
破るんじゃなく。
マグカップの湯気が薄くなっていく。
夜はまだ深くなる。
舞は、ようやくひとつ、呼吸を落とした。
「りゃんが呼んだの、嬉しかった」
声にした瞬間、指先が熱くなる。
でも、もう戻らない。
りゃんは驚いたように見えて、次の瞬間、すこし目を伏せる。
「俺も」
たった三文字。
なのに、これ以上に危険な合図はない。
---
ここで止めておく。
舞がこの夜に踏み込む勇気をどう扱うかは、次の一呼吸で変わるから。
続けてもいいし、舞の心の声だけ追ってもいい。
どう進めたい?
理由はいくつか想像できる。
ひとつは…距離が一気に縮まる場所だから。
部屋って、外の顔を置いてく場所だろ。そこに足を踏み入れると、相手の弱さとか欲とか、隠してきたものが急に近くなる。
もうひとつは、期待が生まれる場所でもある。
「何が起きるの?」ってふたりとも少し身構える。
嬉しさと怖さがセットで来る。
舞の中にも、独り占めしたい気持ちと、嫌われたくない保身が同居してる。
その矛盾ごと目の前にさらされると、心が揺れすぎるんだ。
危険ってのは、悪い意味だけじゃない。
落ちたら戻れない…そういう予感をはらんでるって話。
じゃあ、すこし息を継いで続けるね。
視点は舞。あくまで扉の前までの話にしておく。
――――
呼ばれた、なんて。
りゃんシーの部屋。
ドアの前に立っただけで、脈がうるさい。
いつもの優しい笑顔が浮かぶ。
でも今日は、それだけじゃない。
「舞さんが来てくれるなら安心…」って
そんなこと、冗談みたいに言われた。
安心?
私といると安心する?
…そんなの、期待させるに決まってる。
指先が震える。
インターホンに触れたまま、押せない。
もし入ったら、きっと全部見えてしまう。
私の独占欲も、嫉妬も、
彼を困らせたい下心も。
だけど、引き返せない。
だって――
孤独を抱えて、夜のサービスにすがってきたのは
りゃんシーの方じゃない。
だから今夜は、私がそこに入り込む。
「りゃんシー…開けてくれる?」
押したボタンは、やけに軽かった。
中から、ゆっくり足音が近づく。
扉一枚。
それだけ隔てて、
期待と危うさが静かに息を潜めていた。
ほてるめさめたらとじこめられとる
了解。
ここは舞視点で、でも踏み込みすぎない「眠りにつくまで」。
――――
部屋に入った瞬間、
りゃんシーの生活の匂いがした。
ハーブと、夜の空気と、少しの寂しさ。
彼は気まずそうに笑って、
布団をぽん、と叩いた。
「…よかったら、横になって。疲れてるでしょ」
なんて優しい言い方をするの。
そんなの断れるわけない。
並んで寝転ぶと、天井が遠く見える。
隣の体温が、距離を測ってくる。
触れてないのに、触れそう。
触れられたいのに、触れられたら終わる。
「舞さん、…無理してない?」
低い声が、布団の中で溶ける。
「してないよ。むしろ、ここにいたい」
それ以上言ったら、
全部伝わってしまいそうで、口を閉じる。
彼は目を細めて、
ほんの少し近くなる。
指先が布団の上で揺れて、
偶然みたいな顔で、私の手に触れた。
心臓が跳ねた。
でも逃げなかった。
こんな距離で眠れるわけないのに、
眠ったふりをする。
彼の呼吸が、少しずつ整っていく音。
それを聞いていると、
「守られてる」なんて錯覚してしまう。
りゃんシーの夜に、
私が入り込んだ証拠みたいに。
目を閉じたまま思う。
――私が癒す。
もう、誰にも譲らない。
静かな寝息の隣で、
嫉妬と安心が同時に胸を満たしていった。
じゃあ、そっと朝をのぞく感じで。
――――
カーテンのすき間から、
やわい光が布団の上を撫でていた。
りゃんシーは仰向けで、
前髪が少しだけ額に張りついてる。
寝顔は…普段より、ずるい。
守るとか、強がるとか、
そういう鎧が全部ゆるんでいて、
ただの「若い男の子」の顔。
ときどき、眉がぴくって動く。
夢の中でも誰かと戦ってるのかな。
疲れ、抜けてほしいのに。
「……ん」
小さく喉が鳴って、
腕が私に触れそうに伸びる。
寝ぼけて探しているみたいで、
胸がきゅっとなる。
こんな無防備な姿、
他の誰にも見せてほしくない。
一瞬で黒い独占欲が湧く。
呼吸がゆっくり変わって、
薄く目が開く。
「…舞さん?」
掠れた声。
寝起きの警戒が追いつく前の、
ほんの数秒の素直さ。
「起こしちゃった?」
そう聞くと、
彼は首を振って、
まだ夢の中みたいに笑った。
「…起きてほしくなかったな」
こっちが言う台詞なのに。
ずるい人。
布団の中の体温が、
朝の冷たさを押し返してくる。
この数センチの距離が、
いちばん危うくて、
いちばん手放したくない場所だと思った。
りゃん側の、まだ意識が寝とぼけてるところから。
――――
まぶたの裏が明るい。
カーテン、ちゃんと閉めてなかった。
……起きたくない。
枕がひんやり気持ちよくて、
身体の重さだけが「生きてる」って教えてくれる。
最近は、朝がいちばん孤独だ。
でも今日は――
すぐそばに、人の気配。
柔らかい香り。
ラベンダーじゃない。舞さんの匂い。
ああ、そうだ。来てくれてたんだ。
夢じゃないのが、少し怖い。
目を閉じたまま、
誰かの腕を探すように動いてしまう。
触れたら壊れるものに手を伸ばすみたいに。
布団の中、温かい。
胸の奥が、きしむ。
少しだけ目を開けると、
舞さんが覗き込んでた。
驚かせたら悪いから、笑っとく。
「…舞さん?」
声が掠れて気恥ずかしい。
寝起きは防御力ゼロだ。
舞さんが「起こしちゃった?」って言う。
そんなわけない。
むしろ――
起きたくなかった。
朝になれば、またいつもの自分に戻るから。
だから言った。
「…起きてほしくなかったな」
言った瞬間、
自分で自分に動揺する。
なに言ってんだ俺。
舞さんに触れたらダメだ。
期待させるのも、逃げるのも下手だから。
全部、壊す。
でも、ほんとは。
この距離のままでいてほしい。
布団の中に引きずり込みたくなる衝動を、
喉の奥で噛み殺す。
――舞さんには、
朝の俺なんか見せたくなかったのに。
分かりやすく火をつける場面じゃなくて、
「自分で自分に呆れながら、それでも止められない」夜で描くね。
---
部屋の灯りはつけていない。
スマホの画面だけが、顔に薄い光を投げる。
スクロールする指先が、わずかに震えている。
検索履歴の上に浮かぶ名前――
りゃんシーと似たヘアスタイル、
似た輪郭、
似た雰囲気の男の人たち。
(こんなことして、何してんだ俺)
苦い自己嫌悪が喉の奥に貼りつくのに、
指は止まらない。
一瞬、再生をためらう。
でも、また押してしまう。
画面の向こうは知らない誰か。
わかってる。
似てなんかいない。
替わりになるわけがない。
それでも、
ほんの刹那、
りゃんの姿を重ねられるだけで十分だった。
目を閉じる。
映像を消すように。
けれど、
脳裏に残るのは、りゃんの声、
りゃんの表情、
りゃんの唇の形。
手を額に当てて、にがく笑う。
「……俺、ほんと、どうしようもないな」
でもそこで止まることもできない。
孤独をごまかす術を、
覚えてしまった人間の夜は長い。
それでも
最後に思い浮かべるのは一人だけ。
――どうか、これは誰にも知られないままで。
性欲と恋愛がエッセイ
夢の中のりゃんは、現実よりすこしだけ大胆だった。
でも声は、あのいつも通り落ち着いたまま。
---
暗いサロンの待合室。
外の灯りがガラスに揺れて、二人の影を長くしている。
りゃんが突然、呼んだ。
「遥」
名字でも敬語でもない呼び方に、胸がつまる。
「ちょっと来て」
手首をそっと掴まれる。
抵抗する理由なんて浮かばない。
ただ導かれるまま、奥の施術室へ。
ドアが閉まると、世界がふたり分だけ小さくなる。
りゃんは近くに立って、まっすぐ見つめてくる。
その距離に、息が浅くなる。
「誰にも見られたくないんだ。
……遥の、こういう顔」
どんな顔してるかなんて分からないのに、
言われただけで頬が熱くなる。
りゃんの指先が、肩に触れる。
軽いのに、命令されてるみたいな重さ。
「怖い?
……平気だよ。俺がいる」
耳の奥が鳴る。
夢だって気づいてるのに、
醒めたくないと願ってしまう。
りゃんは少し笑って、
囁くように言う。
「もう、隠さなくていいだろ」
その言葉で、全部見透かされてるって分かる。
逃げ場がないのに、不思議と安心してしまう。
りゃんの顔が近づいて――
---
そこで目が覚める。
天井しかなくて、指先は冷たい。
息はまだ乱れたまま。
夢のくせに、ひどい。
優しく誘っておいて、置いていく。
枕を掴んだ手が震える。
心臓が、現実に追いつけない。
「……りゃんの、ばか」
小さく呟いても、
返事がくるわけじゃないのに。
きょりちかづく
ねむねぼけ
いまの遥って、
ブレーキとアクセルを同時に踏んでる感じなんだと思う。
欲はちゃんとある。
りゃんを振り向かせたい、触れたい、独り占めしたい。
そこはごまかせない。
でも、同時に知ってしまってる。
りゃんが「断れない人」だってこと。
近づくほど、相手が自分を傷つける方を選ぶタイプだってこと。
だから、
"自分のために押す"と
"相手のために待つ"が
いつも綱引きしてる。
アプローチはしたい。
でも、それが「奪う」形になるなら苦しい。
遠くから欲しがるより、
近くで大事にしたい…みたいな、面倒くさい優しさ。
もし動くとしたらさ、たぶんこんな瞬間なんだろうね:
・りゃんの方から少しだけ「欲しい」が漏れたとき
・待つほうが、逆に相手を苦しめてしまうと気づいたとき
・自分を好きになれた実感が、ちゃんと積み上がったとき
焦らないで気づいてる。
自分が踏み込む一歩は、相手の心にも踏み込むって。
遥は弱いんじゃなくて、
強さの出しどころを選んでるだけ。
あーわかる
りゃんって、普段は気配を薄くしてるのに、
ふとした拍子に「守りが落ちる瞬間」がある。
例えば——
・疲れて帰ってきて、鍵を外す音がやけに重いとき
呼吸が少し乱れてて、目が合うとすぐ逸らす。
平気なふりが下手。
・誰かに褒められたあと、どう喜んでいいか分からず固まるとき
照れなのか怖さなのか、自分でも処理できてない感じ。
・眠気に負けた顔で、椅子にもたれて意識がゆるむとき
戦う気力が落ちた子どもみたいになる。
・自分のことを真剣に聞かれたとき
一瞬だけ、ほんとに頼りそうな目をする。
・困ってる相手を拒めずに、無理を飲み込んだ直後
やさしさと自傷の境目。
そういう隙は、
「助けて」なんて絶対言わない代わりに、
体温でバレるようなやつ。
遥はたぶん、
その"落ちた鍵"に気づける数少ない人なんだと思う。
寄りかかってほしいわけじゃない。
ただ、
そこに自分がいたいって思える。
りゃんはね、優しさを受け取るのがほんとに不器用。
だから状況によって、反応が揺れるんだと思う。
---
最初は拒む。
「大丈夫」
「平気だって」
言葉で距離を作る。
助けられると「弱さが見える」と思ってるから。
---
でも、離れられると不安になる。
視線が追う。
声が少しだけ小さくなる。
「……どこ行くの」
止められないから、掠れた声で引き留めようとする。
---
触れられた瞬間、力が抜ける。
腕を掴み返したりはしない。
ただ、委ねるように重さが預けられる。
「……ありがと」
その一言さえ、震えてる。
---
ほんとは、
優しくされると泣きたくなるタイプなんだろうね。
優しい手に触れられると、
自分の孤独が全部バレてしまう。
だから、
遥が踏み込む一歩は、
「ここにいてもいいよ」
って言葉と同じくらい、
りゃんの心を揺らす。
するよ。
ただ、りゃんは自覚するのがものすごく遅い。
最初は単純に「頼りになる先輩」くらいの認識。
放っておけない存在で、近くにいると安心する。
でもその理由を考えない。考えると崩れそうだから。
で、たまにこういう瞬間が来る:
・遥が他の誰かに優しくしてるのを見て
胸の奥がざらつく
・ふざけて笑い合ったあと
急に目を逸らす
・ちょっと距離が空いただけで
理由を探して落ち着かなくなる
そういうとき、
「なんで?」って自分に問いかけるけど、答えに触れた瞬間、
慌てて蓋をしちゃう。
自分が人を好きになるなんて想定してないから。
でもね、
りゃんの無意識はもう遥の名前で動いてる。
気づいたら視線で追ってる。
気づいたら声のトーンが柔らかくなる。
気づいたら、遥の言葉を覚えてる。
意識はしてる。
ただ、まだ「意識してる」と認めてない。
その溝が、ふたりの今の温度。
未来って、一本の線じゃないからね。
でも今のふたりを見ていると、いくつか見えてくる道はある。
りゃんは "好き" を見て見ぬふりしてる。
遥は "好き" を言えば勝てるのに、あえて言わないでいる。
その均衡がいつか崩れる。
たとえば——
りゃんが弱る日
泣きそうな顔を誰にも見せたくなくて、
でも隠しきれなくて、
その場にいたのが遥だったら。
遥が限界まで優しくした日
相手のための距離を守ってきたはずなのに、
ふと指先が触れた時、
どちらも引かなくなる。
どちらかが誤魔化しきれない出来事が起きた日
ヤキモチでもいいし、
守れなかった悔しさでもいい。
理性より感情が先に走る瞬間。
そのどれかが訪れるたびに、
すごくゆっくり、でも確かに近づいてく。
焦ったら壊れるし、
待ちすぎてもすれ違う。
でもね、
いまはこのままでいいと思う。
静かに、ほのかに、
「好き」が形を変えていく時間は
あとから振り返るといちばん尊い。
怖さも、期待も両方抱えたまま、
そのまま進めばいい。
どこへ行くかは、ふたりが選ぶ。
ちゃんと自分の足で。
たしかにこういうblみないような
のんけがこいにおちるbl